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「おせぇよ」
エレベーターで一階に着くと、ホールにいた晴一さんが、司のコロコロをげしっと蹴った。
「エレベーターがトロいんだよ」
「阿呆か。何でも人のせいにすんな」
「は……晴一さん……?」
何で晴一さんがいるの?
おそらくキョトン顔であろう俺を見た晴一さんは、
「あぁ、司ん家の車で駅まで乗せてって貰うことにしたんだよ」
………聞いてねぇよ。言えよ、司。
エレベーターホールで、犬だのコロコロだのと話していたことを深く後悔した。すいませんお待たせしてごめんなさい。土下座します。
「つーかあいついないのな」
「え?」
「……木崎」
「木崎はまだ準備してましたよ。あ、でも駅で会うかもしれないですね」
あいつの実家は、確か京都だった。
どのみち下の駅まで行かなきゃ、まともな交通機関はないから、車でも使わない限り駅まで行くだろう。けど、京都まで車かタクシーは………ないと思う。
「残念だなー晴一」
「………は?」
「片思いだなー、俺の晶に奪われちゃって可哀想」
「うっせーよ! つーか拒絶されてんだろ普段」
「されてねーよ。ほんま晴一はんたらいけずやわー」
「潰すぞコラ」
「ヘイタクシー! 京都までこれで頼むぜ」とカードを差し出すようなセレブだという話は聞いてない。けれど木崎がタクシーで京都に行く姿は、簡単に想像が出来た。
「まーいいわ。木崎って実家どこ」
「京都だって」
「ぁん? 晴一と一緒じゃね?」
「えっ!!」
晴一さんって京都人なのか。
京都人って、何かカッコいい。おこしやすー、とか言うんだろうか。
「木崎、あいつ京都なん?」
「晴一知らねぇのかよだっさ!まじだっさ」
「司も知らなかっただろ」
何なのこいつ。何でつっかかんの。晴一さんと何かあったの。
「あ、俺関西弁聞きたいです! 京都弁!!」
はいっと手を上げて、立候補した。
方言って、地域密着という感じがして、いいと思う。特に関西弁は、女の子が話してたら可愛いし、男の人が使ってたらカッコいいし。俺は方言がない地方に生まれたから、そういうのは羨ましい。
「何だよいきなり」
「聞いてみたくて……やっぱだめですか?」
「………」
晴一さんはじっと俺を見て、やがてため息を吐いて顔を逸らされた。わあ、泣ける。
「……えろぅ使うてへんから、そんなん忘れてしもたわ」
「………え」
ちょっと呆れたみたいな横顔。視線だけちらりとこちらを向いて、「満足か」と呆れたように問い掛けてくるのが分かる。
「晴一さんカッコいいです結婚してくだぁぁああ!!?」
そのまま突撃しようと両手を拡げた。ら、司に頭を捕まれ、それを止められた。
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