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俺が寮に着いたとき、木崎は丁度制服から私服に着替え終わったところだった。
「先戻るなら言ってよ……」
「鳴海先生と話していたようだったから」
「いや話してたけどさ」
腕捲りした白シャツに黒ネクタイ、ストライプの入った濃いグレーのパンツに、エンジニアブーツ。
今更だけど、木崎ってばお洒落さん。いつかエスニックな服着てるのも見たことあるし、ロックな格好も似合うし、実家じゃ着物まで着るらしい。
「西園寺会長、待たせてないのか?」
「エレベーターホールで九時十五分に待ち合わせ! 準備は昨日済ましたから、あと着替えるだけ」
「制服をクリーニングに出すのを忘れるなよ」
「あ、忘れてた」
「クリーニング専用の袋に入れて、玄関に置いておくんだぞ」
「分かってるって」
木崎ってば過保護なんだから。そんなに愛されて、俺は幸せだ。
「西園寺会長に迷惑掛けるなよ」
「いっつも司に迷惑掛けまくられてるし。仕返ししてくる」
「あくまで仕事だからな。だが全力でやれ」
「はーい」
そう、仕事。
司曰くの「西園寺の別邸」で働けば、金が貰える。要するに住み込みのバイトだ。雇い主の身柄もハッキリしてるし、それなりに気心知れてるし、あいつの家って金持ちだから、給料も結構高いかもしれない。
授業が始まる三日前にはまた寮に戻ってくるらしいから、地元に帰って遊ぶ時間もある。
そんなことを考えていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。そろそろ俺も着替えよう。
「じゃあ行ってきまーす! 木崎、事故るなよー」
「一緒にするな。気をつけろよ」
「何か不吉!!」
先行き不安な木崎と別れて、自分の部屋に戻った。
制服を脱ぎ、ブレザーと一緒に白い袋へ。これを玄関に置いとくと、休暇中に回収されて、休み明けにはクリーニングされて返ってくるらしい。便利な仕組みだよなぁと、今更ながら感心する。
クローゼットのタンスからTシャツとデニムを引っ張り出して、頭から被った。腹に土星が描かれた青いクマがプリントされた、白いTシャツだ。木崎がくれた。
それにデニムを合わせて、ついでにベルトもつけた。あとは靴なんだけど………休暇中ずっと同じの履くわけだから、無難に黒のスニーカーにしておこう。
入学してから三ヶ月しか経ってないはずなのに、もっと長くこの部屋にいたような気がした。
一ヶ月の休暇。嬉しいような、ちょっと寂しいような。
「行ってきます!」
そんな自分を奮い立たせるみたいに、誰もいない部屋に向かって言った。肩に掛けた鞄を背負いなおす。
エレベーターホールまで走っていくと、すでにそこには司が待っていた。
「おせぇよ」
「うっせ。てかコロコロカート使うくらい持って帰るもんあんの?」
「コロコロカートってお前………キャリーとか言えよ」
「コロコロはコロコロだろ」
だって分かりやすいじゃないか。
キャリーって何? 犬ですか?
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