出発
終業式が終わり、今日から夏休み。
一旦寮に戻るために、俺は木崎と中央校舎南廊下を歩いている。
「海も行きたいし、花火もしたいなー! 木崎もしようぜ!」
「無理」
「早っ!」
「実家関西だから」
木崎と海に行ったり、お祭りに行ったり、夏イベントしたかったのに。ばっさり断られ、何だか切ない。へこむ。
「おい、市川」
とぼとぼと半歩後ろを歩いてると、後ろからポコンと頭を叩かれた。
「い゙っ……あ、鳴海」
「担任の先生を呼び捨てにするな」
そこにはホスト担任・鳴海がいた。黒スーツが、相変わらずホストっぽさを出している。
ここの学校の先生は、夏でも長袖もしくはスーツを着てる人が多い。暑くないんだろうか、クーラーが効いてるから平気なんだろうか。
「何でしょーか鳴海センセー」
「………。お前残留届どした」
残留届というのは、「長期休暇学生寮残留届」の略称だ。要するに、夏休み期間中寮に残る人はその紙にサインをして、担任のハンコを貰って、寮のフロントにそれを出さなくちゃいけない。
寮に残ることになるかもしれないから、一応紙だけ鳴海から貰っておいたのだ。
「んー。やっぱ寮に残んないことにした」
「そうか。良かったね」
「え?」
「ぉわっ!!」
いきなり鳴海の左肩に首が乗っかった。
「設楽センセー」
保健室の設楽先生だった。この人は、いつも白衣を着てる。
「こんにちは市川くん。遊びに行けることになってよかったね」
「あ、ありがとうございます」
設楽先生はニコッと笑い、鳴海の頬をぶにんと伸ばす。
「おい、やめろ」
「楽しんできてね」
「はい! じゃあ木崎、行こ………あれ」
ふと振り返れば、前を歩いていたはずの木崎がいない。
「僕が来た時点でいなかったよ?」
「つーか俺見て逃げたぞアイツ」
「えっ!」
気付かなかった!
ロクな挨拶もしてないのに、先に寮を出られたら困る。設楽先生と鳴海に礼をして、俺は慌てて寮まで走った。
「夏休みかぁ……どこ行こっか、嵐」
「は? 仕事あんだろ仕事」
「休暇貰えるじゃん」
「暑いし引きこもる」
「そっかー……うん、それもまたいっか、な」
「は?……って何すんだここ学校、」
「学校じゃなきゃいいの?やったー」
「…………!?」
「ふふ、夏休み楽しみ」
だからそんな二人の会話、俺は知らない。
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