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 「何であそこで意地を張るのか、僕には分からないよ」


 紫先輩が黒いアイスのカップを俺にくれた。アーモンドの絵の下には、何かアルファベットが書いてある。無理やり読んでみても、まったく意味が分からない。うーん、テストはあれだけ頑張ったけど、俺もまだまだ未熟者なんだろうか。


 「意地って何ですか」
 「うーん……要するに夏休み期間、君と一緒にいたいんじゃないかな」
 「はぃい?」
 「僕もそうしたいところなんだけど、生憎旅行に行くからね」
 「旅行……ですか?」
 「うん。ウィーンにいる祖父母の家にね。美作の本邸は居心地が悪いから。高飛び」


 紫先輩はそう言って、悪戯した子供みたいにニヤッと笑った。琥珀色の瞳に、"美作"の家に対する怒りとか憎しみが無いことに気づいて、俺は安心する。



 「ユカリン、ウィーン行くの?」


 近江先輩の手には、俺と同じカップが乗っていた。
 アイスの存在を忘れてた俺は、思い出してスプーンですくい、口にする。焦がしキャラメルの味が拡がり、まったりとしてそれでいてしつこくない。アイスがこんなにも美味しい食べ物だということを、俺は初めて知った。


 「そうだよ。楽しみだな」
 「僕はね、実家に帰るの!」
 「近江先輩の実家ってどこなんですか?」


 アイスを食べながらも、気になったので会話に混ざると、


 「え? 広島だよぉ」
 「えっ」


 広島って……近江先輩、広島男児なのか。見えないです。
 何となくショックを受けながらアイスのカップを掘り起こしていると、紫先輩がクスッと笑った。


 「司なりの気遣いだと思うよ?」
 「え?」
 「実家でアルバイトか、寮に引きこもるつもりだったんでしょ?」


 何で知ってるんだ。魔王? 魔王だから?


 「ご飯も食べられるし、ちょっとした旅行気分も味わえるし。いいんじゃないかな、西園寺の別邸、綺麗だよ」
 「………」


 そんな風に言われたら、こっちとしても考えてあげなくもない。
 まあ行ってやってもいい、……………かな?




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