--03
「……え」
「庶民、って言ってるの。聞こえなかった?」
そいつは女の子みたいな可愛い顔を歪めて言った。
一瞬何を言ってるのか分からなかった。聞き返すと、同じことを嫌味混じりにもう一度言われ、俺はようやく理解する。
「頭悪そうな顔。本当に特待生?」
「………」
「もう一人の特待生は天才だって聞いたけど、アンタはバカみたい。お金払って受かったんじゃないの?………あぁ、アンタは庶民だったね。市川なんて聞いたこともないよ。庶民の出に、そんなお金は無いよね?」
学食中の人間からの、無遠慮な視線を感じた。
じろじろ見られている。クスクスと笑い声が聞こえる。
「バカ面」
そいつは最後にそう言うと、フンと鼻で笑って目の前から消えていった。
残された俺に、容赦ない言葉の槍が降り注ぐ。
「確かにね……」
「理事長と寝たんじゃないの?」
「まっさか! あんなオタクが?」
『本当に特待生?』
違う。
『君が古賀学園に特待生として編入学出来たのも、全て君の父上のご厚意だ』
『お金払って受かったんじゃないの?』
『庶民の出に、そんなお金は無いよね?』
『君はお父上について何一つ知る必要はない』
庶民かどうかなんて知らない。
家柄なんて分からない。
父さんが誰かも知らない。
でも、ただひとつハッキリしてるのは、
『―――君が古賀学園に特待生として編入学出来たのも、全て君の父上のご厚意だ』
俺は、特待生じゃない。
選ばれた人間じゃない。頭なんて良くないし、勉強なんて全く分からない。
周りの音が遠ざかってく。
視界が滲む。
みじめで恥ずかしくて悔しくて、どうにかなってしまいそうだった。
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