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旧約
 
 
 「………広すぎだろ」


 ため息と一緒にそんな感想が漏れた。

 俺がいま見上げるのは、古賀学園高等部の校舎。他にも中等部やら図書館(図書室じゃないの?)やら専用のグラウンドやらあるはずなのに、高等部だけでもめちゃくちゃ広い。どれくらい広いかっつーと、めちゃくちゃ広い。とにかく広い。
 つーか何で学校の敷地に庭があんの? 何で鯉とか泳いでんの? 何で鯉とか泳いでんのに建物はレンガなの? 明治時代の迎賓館をイメージした、どこかノスタルジックな英国調(パンフレット参照)ってやかましいわ。こんなとこに金使うなよ。


 「………よしっ!」


 今日からここが、俺が三年間住む場所。

 気合いを入れて、ショルダーバッグを肩に掛け直した。金持ち学校が何だっつーの! お蝶婦人でも何でも出てこいや!

 フンと胸を張って歩き出そうとすると、


 「何か御用ですか?」


 ………王子様に話し掛けられた。


 金髪色白、目は緑。
 もうこれでもかっつーくらいに異国の王子様が、門の前に立っていた。

 誰この人。日本人?


 「えっ、と」
 「此処は古賀学園高等部の敷地内ですが……」
 「あ、編入生の市川 晶です! 理事長室に行かなきゃいけなくて、」
 「あぁ、君が外部編入生の」


 ニコリ。

 納得したような王子様は、少女漫画ならバックに花咲いてるレベルの笑顔を俺に向けて下さった。眩しいです。

 王子様は「理事長室なら中央校舎の五階だね」と左手を軽く挙げた。どうやら案内して下さるらしい。その指先も足取りも、すべてがなめらかで美しい。くんと鼻を動かすと、ほのかにいい匂いがした。これが気品ってやつなんだろうか。俺もこの学校に三年間通ったら、いい匂いの人間になれるんだろうか。こっそり自分の腕をくんくんと嗅いでみると、柔軟剤の匂いしかしなかった。俺はただの庶民らしい。


 「今年の外部編入生は二人とも特待生なんだね」
 「……はぁ?」
 「知らないかな? 此処の外部編入試験は凄く難しいみたいだから、外部編入試験に合格しただけでも注目されるとは思うんだけど……特待生試験は更に難関だから、ダブルで合格するなんて凄いって、早速噂になってるよ」
 「え」
 「今年はそれが二人も出たからね。あ、もしかして君は満点合格君?」
 「違います違います!」


 何だそれ! 満点どころか、試験の存在すら知らない。ここってそんなレベル高いの? 俺、中学の勉強すら出来る気がしないんだけど大丈夫デスか。

 早い話がコネで入学した俺は、何も知らないのだ。
 申し訳なくて「頭悪いです本当」と弁解すると、「謙遜家だね」と上品に笑われた。
 いや、謙遜じゃなくてマジなんで。


 「外部編入から学園のカリキュラムに着いていくのは大変だけど、頑張ってね」


 王子様スマイル。

 ニッコリ笑われて、……ん、何か違和感。
 顔立ちは整ってるし、声は穏やかだし、それでも何かがちぐはぐで………。


 「あ」


 分かった。


 「目が笑ってないんだ」



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