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駄作
●明日も泣く兎 (兄神)


今日も夢の中の私は泣くのだろうか。

夢、と分かるのはその景色…周りが真っ黒だからだろうか。それとも自分自身の姿のせいだろうか。私は夢の中では幼くなっている。その姿は、あの日の姿。神威が家族を捨てた日…幼かった私には理解できなかった、けれど今は理解している。アイツはもう家族なんかじゃない。私たちの、敵になったんだ。そう割り切っても心のどこかでまだ家族と思ってるのかもしれない。だって、この夢には神威が出てくるのだから。

『兄ちゃん』

呼びかけても返事なんてない。ただ、振り返ってじっと私を見つめてくるだけ。距離は近いんだと思う。だって相手の表情が分かるから。でも神威の姿は、今のままだ。これも夢だと思う証拠。

『兄ちゃん』

それでも呼びかける私はなんなのだろうか。自分が自分じゃないみたいな感覚。神威の表情は変わらぬまま。それが余計にムシャクシャして、必死になってしまう。私はまだこの感情が分かるほど大人なんかじゃないんだ。

『兄ちゃん、兄ちゃん』

何か言ってヨ。言葉がほしいヨ。必死に神威を呼ぶ。昔の呼び方で、こんなの私らしくない。神威の表情にちょっとだけ変化が訪れた。眉間に皺を寄せて、困った様な面倒くさい様な表情になった。その表情が昔を思い出させる。私の好きだった兄の頃の表情と重なる。ねぇ気付いてヨ、私、泣きそうなのに…

『ぅ…ひっく、にぃ、ちゃ…うぅ』

溢れ出した涙は止まることを知らない。次から次へと出てくる涙。もう相手の顔が涙で歪む。必死なの、私、必死に呼んでるよ?気付いてる?気付いてよ。縮まらない距離は今の私たちの距離みたいで、きっとどちらかが一歩を踏み出さなければいけないのかもしれない。

何度も何度も私は夢の中で泣く。この夢を見た後の目覚めは最悪。そして少し寂しい。きっとこの寂しさを埋めてくれるのはだた一人。

明日も泣く兎

また同じ夢を見た時はちょっとは変わってることを願うヨ。



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