知ることを知るそのミチで
「kU'mE-somOiaYOsomI」
「柚希…様?」
部屋には緊張が走り、チシュウの声がポツリと残った。
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「えっ?あっ、はい!なんでしょう!?」
あれれれ何で皆こっちみてるの!?私何かした!?
「……(ヤタとキョウの言っていた通り、原語(アトムズスペル)を…)」
あああチシュウさんが何か考えちゃってる。キョウさんもヤタさんも何か少し驚いてるし。シキさんは…お茶飲んでる。カガリくんは―…?
「あっ!甘いものが食べたくなりました」
…は?
「…カガリ」
キョウさんが呆れてる。でも周りの反応を見ると、どうやらいつもの事らしい。
「ちょっと行ってきますね〜。柚希さんも行きませんか〜?」
「へ?!」
って、既にぐいーっと引っ張られてく私。
「えっ、あっ…お?!」
何にしましょーかね〜、じゃなくってカガリくん。
私は彼にズルズルと引きずられ部屋を退場していった。
「えー…と、カガリくん?」
「はい?なんでしょう?」
部屋を出たところで手を離し、前を行くカガリくんが笑顔で振り返る。可愛い。凄く可愛い。なんだかお花が見える。
「…な、何でもないです」
その笑顔に負けた。脱力。
「そーですかー?」
また前を向き、私に合わせてくれているのかゆっくり歩き始める。
「…ねぇ、カガリくん」
「はい〜?」
今度は振り返らずに、でも可愛らしく返事をする。
私は自分が巫女だと言われてから、心の片隅で疑問に思っていたことを聞いてみた。チシュウさんは詳しい事分かんないって言ってたけど、聞くだけならタダだしね。
「…その、前の巫女さん…失敗したとかシキさんが言ってたけど…」
――チシュウ達もよく知らないんだよ。前回の巫女は失敗しているし――
カガリくんの歩みが止まる。
「もし私が拒否したり失敗したらどーなるか、知ってる…?」
おずおずと尋ねる私に返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。
「凰音の守さんが鎮めますよ〜」
先程と全く変わらず、可愛い笑顔で振り向き答える。
「…………へ?」
凰音の守さんが…鎮…め?
「だったら最初から凰音の守がっ――」
「身体の一部を贄にして…です」
「え…?」
何?
「身体の一部をにえ…?」
贄って、生け贄とか…そう言う…。
ドクドクと自分の鼓動が速く、そして大きくなるのが分かる。
―――だから、片腕…方翼…だった………の?
あのヒトが、自分の身体を生け贄にして…?
頭から、足元から、指先から、どんどん私の体温が下がっていく。ような気がする。
そんな私を知ってか知らずか、いつの間にか前を向いていたカガリくんが言葉を続ける。
「でも、その方法だと巫女さんが鎮めるのと違って、餌で気をまぎらわすみたいな感じですからー」
餌…?
「前回から150年位でカリユガが起こってしまった今回みたいに、サイクルが短いらしいんですよー」
言葉は分かるのに、頭がちゃんと働いてくれない。
「………」
私は無意識に冷たくなった両手を握り合わせる。
「あ、あと僕達は死んじゃいます」
「っ!!?」
小さな事を思い出したような物言いで発せられたその言葉に、下向きかけてた私の顔ははねあがった。
「あー、正確には月守人の僕とチシュウさんとキョウさん、ヤタさん、ユウヒさんの5人ですねー」
シキさんは月守人じゃないのでー。と、指折り数えながら声音を微塵も変えずに話す。
「な…どうして…?!」
どうして…?
「巫女さんを守るためにいる僕達(月守人)ですからー、連帯責任とかじゃないですかねー?」
それもどうしてなんだけど…違うよカガリくん。
「何で…そんな何でもない風に…」
何で…そんな何でもなく…。何故か涙が出てくる。
「失敗したらしたで、自分が死んじゃうのは別に怖くないんです。今まで色々ありましたから」
表情は見えないけれど、少しうつむきながらそう言う。それでも声音は変わらない。
「あ、でもチシュウさん達が死んじゃうのはとっても悲しいですねー」
カガリくんが上を向き、少しだけ顔が見える。その顔は悲しそうな表情だった。
それでも、と彼は言葉を続けた。
「えー…っと、アレですアレ。乗り掛かった舟」
「へ?」
「僕は月守人故僕なんでしょーし、文句を言ったって途中でやめれません。だったら、楽しんだ方がお得です」
カガリくん…。
「――と、僕は思います〜」
振り返って、にぱーっとあの笑顔を見せてくれる。その彼特有の笑顔で、私の中の何かが吹っ切れた。
知ることを知るそのミチで・終
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