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知ることを知るそのミチで




 
 「kU'mE-somOiaYOsomI」


 「柚希…様?」
 部屋には緊張が走り、チシュウの声がポツリと残った。



***********


 「えっ?あっ、はい!なんでしょう!?」
 あれれれ何で皆こっちみてるの!?私何かした!?
 「……(ヤタとキョウの言っていた通り、原語(アトムズスペル)を…)」
 あああチシュウさんが何か考えちゃってる。キョウさんもヤタさんも何か少し驚いてるし。シキさんは…お茶飲んでる。カガリくんは―…?
 「あっ!甘いものが食べたくなりました」
 …は?
 「…カガリ」
 キョウさんが呆れてる。でも周りの反応を見ると、どうやらいつもの事らしい。
 「ちょっと行ってきますね〜。柚希さんも行きませんか〜?」
 「へ?!」
 って、既にぐいーっと引っ張られてく私。
 「えっ、あっ…お?!」
 何にしましょーかね〜、じゃなくってカガリくん。
 私は彼にズルズルと引きずられ部屋を退場していった。



 「えー…と、カガリくん?」
 「はい?なんでしょう?」
 部屋を出たところで手を離し、前を行くカガリくんが笑顔で振り返る。可愛い。凄く可愛い。なんだかお花が見える。
 「…な、何でもないです」
 その笑顔に負けた。脱力。
 「そーですかー?」
 また前を向き、私に合わせてくれているのかゆっくり歩き始める。


 「…ねぇ、カガリくん」
 「はい〜?」
 今度は振り返らずに、でも可愛らしく返事をする。
 私は自分が巫女だと言われてから、心の片隅で疑問に思っていたことを聞いてみた。チシュウさんは詳しい事分かんないって言ってたけど、聞くだけならタダだしね。
 「…その、前の巫女さん…失敗したとかシキさんが言ってたけど…」

 ――チシュウ達もよく知らないんだよ。前回の巫女は失敗しているし――

 カガリくんの歩みが止まる。
 「もし私が拒否したり失敗したらどーなるか、知ってる…?」
 おずおずと尋ねる私に返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。

 「凰音の守さんが鎮めますよ〜」

 先程と全く変わらず、可愛い笑顔で振り向き答える。
 「…………へ?」
 凰音の守さんが…鎮…め?
 「だったら最初から凰音の守がっ――」
 「身体の一部を贄にして…です」

 「え…?」

 何?

 「身体の一部をにえ…?」
 贄って、生け贄とか…そう言う…。
 ドクドクと自分の鼓動が速く、そして大きくなるのが分かる。


 ―――だから、片腕…方翼…だった………の?


 あのヒトが、自分の身体を生け贄にして…?
 頭から、足元から、指先から、どんどん私の体温が下がっていく。ような気がする。
 そんな私を知ってか知らずか、いつの間にか前を向いていたカガリくんが言葉を続ける。
 「でも、その方法だと巫女さんが鎮めるのと違って、餌で気をまぎらわすみたいな感じですからー」
 餌…?
 「前回から150年位でカリユガが起こってしまった今回みたいに、サイクルが短いらしいんですよー」
 言葉は分かるのに、頭がちゃんと働いてくれない。
 「………」
 私は無意識に冷たくなった両手を握り合わせる。

 「あ、あと僕達は死んじゃいます」
 「っ!!?」
 小さな事を思い出したような物言いで発せられたその言葉に、下向きかけてた私の顔ははねあがった。
 「あー、正確には月守人の僕とチシュウさんとキョウさん、ヤタさん、ユウヒさんの5人ですねー」
 シキさんは月守人じゃないのでー。と、指折り数えながら声音を微塵も変えずに話す。
 「な…どうして…?!」
 どうして…?
 「巫女さんを守るためにいる僕達(月守人)ですからー、連帯責任とかじゃないですかねー?」
 それもどうしてなんだけど…違うよカガリくん。
 「何で…そんな何でもない風に…」
 何で…そんな何でもなく…。何故か涙が出てくる。
 「失敗したらしたで、自分が死んじゃうのは別に怖くないんです。今まで色々ありましたから」
 表情は見えないけれど、少しうつむきながらそう言う。それでも声音は変わらない。
 「あ、でもチシュウさん達が死んじゃうのはとっても悲しいですねー」
 カガリくんが上を向き、少しだけ顔が見える。その顔は悲しそうな表情だった。
 それでも、と彼は言葉を続けた。
 「えー…っと、アレですアレ。乗り掛かった舟」
 「へ?」

 「僕は月守人故僕なんでしょーし、文句を言ったって途中でやめれません。だったら、楽しんだ方がお得です」

 カガリくん…。
 「――と、僕は思います〜」
 振り返って、にぱーっとあの笑顔を見せてくれる。その彼特有の笑顔で、私の中の何かが吹っ切れた。



知ることを知るそのミチで・終







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