優しい夢をみた後で
…あれ…ら?
気が付くとそこは室内だった。
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えっと…、何がどうなってんの?いきなり室内って…。あ、固まってる男の人が二人。もしかし…なくてもこの家の人だよね。
「えー、と…」
あああやっぱり住人さん困ってらっしゃるっ!って、うわ、今度の人は髪の色、深緑。もう一人の方は黒…だ。すでにもうなんか黒髪が懐かしい…なんかなんかじーんとくる…。じゃなくって!すいませんっすぐ出ていきますから!
「あのっ、すいま」
「ヤタと、キョウと…」
…はれ?あの人達とお知り合いなんですか?
緑の人の視線が私に止まる。
「貴方は…」
え?
「えと、私はー…その…」
うわあもうっ何て言えば言いんですか!?
「お嬢さん」
「へ?」
気付いたら黒髪の人が目の前にいた。綺麗な顔だなぁ。
「エンシューリツは?」
「え、エンシューリツ…?」
って、あの円周率のことですか?
「3.14、1592…65…3…えっと…」
とかそんなでしたっけ?あれ、違ったかな。πじゃ駄目ですか?
そんな私を見て、目の前の人がふんわりと微笑んだ。
「あは、もういいよぅ」
そして私を緑の人に紹介するように、手を差しだしこう言った。
「チシュウ。凪音の巫女、彼女みたい」
え、また 巫 女 ?
「そうですか。貴方が…」
良かった…。と、緑の人が私を見て優しく微笑む。訳が分からないけど、とりあえず会釈する私。むぅ、本当に何がなんやら…。
「……………おいバカ巫女。いつまで乗ってる気だ」
「?」
この不機嫌たらたらな声は、青いキョウとか言う人の…って
「っああああああっ!」
あの二人の上に普通に座ってる私。
「とりあえずどけ。重い。」
「ごっ、ごめんなさっ」
うぅ…そりゃいつまでも乗ってる私が悪いけど。悪いけどっ!女の子にむかって重いっ…て…。
わたわたと立ち上がろうとするが。
「あ…れ?」
「「巫女っ!」」「巫女様っ」
その場に倒れ、私の意識は途切れた。
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子供部屋と思われる和室に、10歳くらいの女の子が一人。星柄のパジャマ姿で布団から起きた状態でぼーっとしていた。
「…?」
どだどだと慌ただしく走る音がどんどん近づいてくる。
「ゆっ、柚希ぃっ!!」
息を切らし部屋に走り込んできたのは少女の8歳上の兄、五十嵐 新砂だった。
「あれ、おにいちゃん。なんで?」
元々片親だったが、その父も他界してしまってから柚希は叔母の家で生活している。新砂は高校の近くと言うことで、親が遺してくれた家に一人で暮らし、毎週日曜日に柚希の顔を見にこちらへ遊びに来るのだが、今日は土曜日だ。
「透子(叔母)さんから電話があって柚希が熱だしたって」
よほど心配だったのか、小さな柚希をぎゅっと抱き締める。
「でもおにいちゃん、今日はまだらめさんと、なんとかはくに行くっておととい電話で言って」
「気のせいだ!それより柚希、食べたいものないか?」
心配そうにそう言いながら、腕にぶら下げた大きなスーパーの袋から次々に中身を取り出す。
「ミカンにメロン、リンゴに西瓜にパインにヨーグルト、アイスにプリンにシュークリーム!」
一体その袋にどうやって入っていたのか。柚希のまわりにゴロゴロと果物やデザートが転がる。
「あと、苺のケーキとチョコのケーキがあるぞ?」
別の袋を柚希の前に差し出す。こちらはケーキ屋さんで買ってきたらしく、袋の中には紙の箱が入っている。
そうして全てを出し終えた兄は、じっと妹のこたえを待った。まるでプロポーズの返事を待つ求婚者だ。
「んと、さっきね、とーこちゃんがモモくれてお薬のんだの。だから…お腹いっぱいで…」
瞬間、何かにうちひしがれて項垂れる兄。「透子さんに負けた…っ」と言いながら拳を震わせている。
「ごめんね。せっかく買ってきてくれたのにすぐに食べれなくて…」
申し訳ない気持ちいっぱいで謝ると頭を撫でてくれた。
「いんや、柚希は何一つ悪くないからな!」
でもおにいちゃん泣いてるよ?
「――〜〜そっか。お薬飲んだか。良い子だ柚希!そんな柚希も兄ちゃん大好きだ!」
(ほんとにもう、お兄ちゃんってばシスコンなんだから)
「じゃあ横になって沢山休んでかなきゃな」
「うんっ」
元気よく返事をして横になった私に、優しく微笑み布団をかけてくれる。そして…
(おでこにくっつけてくれた お兄ちゃんの手…)
「………つめたくてきもちぃ」
ぽつりとした自分の声で目が覚めた。夢からは覚めたのに、額には冷たい手が置かれている。
ってあれ?今の夢だったよね…?この手
「誰の…ぅおっ!?」
「っっ!?」
額の手に無意識に自分の手を重ねた瞬間、その手が凄い勢いで引っ込められた。
そこに立っていたのは頬を赤く染め眉間にシワを寄せた、色白で長い銀髪の青年だった。が、次の瞬間には走って部屋を飛び出して行ってしまった。
「あー…」
別にセクハラするつもりじゃ…。
「ってゆか、誰?」
答えてくれる人はいなかった。
優しい夢をみた後で・終
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