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優しい夢をみた後で





 …あれ…ら?
 
 気が付くとそこは室内だった。


***********


 えっと…、何がどうなってんの?いきなり室内って…。あ、固まってる男の人が二人。もしかし…なくてもこの家の人だよね。
 「えー、と…」
 あああやっぱり住人さん困ってらっしゃるっ!って、うわ、今度の人は髪の色、深緑。もう一人の方は黒…だ。すでにもうなんか黒髪が懐かしい…なんかなんかじーんとくる…。じゃなくって!すいませんっすぐ出ていきますから!
 「あのっ、すいま」
 「ヤタと、キョウと…」
 …はれ?あの人達とお知り合いなんですか?
 緑の人の視線が私に止まる。
 「貴方は…」
 え?
 「えと、私はー…その…」
 うわあもうっ何て言えば言いんですか!?
 「お嬢さん」
 「へ?」
 気付いたら黒髪の人が目の前にいた。綺麗な顔だなぁ。
 「エンシューリツは?」
 「え、エンシューリツ…?」
 って、あの円周率のことですか?
 「3.14、1592…65…3…えっと…」
 とかそんなでしたっけ?あれ、違ったかな。πじゃ駄目ですか?
 そんな私を見て、目の前の人がふんわりと微笑んだ。
 「あは、もういいよぅ」
 そして私を緑の人に紹介するように、手を差しだしこう言った。
 
 「チシュウ。凪音の巫女、彼女みたい」
 
 え、また 巫 女 ?
 
 「そうですか。貴方が…」
 良かった…。と、緑の人が私を見て優しく微笑む。訳が分からないけど、とりあえず会釈する私。むぅ、本当に何がなんやら…。

 「……………おいバカ巫女。いつまで乗ってる気だ」
 「?」
 この不機嫌たらたらな声は、青いキョウとか言う人の…って
 「っああああああっ!」
 あの二人の上に普通に座ってる私。
 「とりあえずどけ。重い。」
 「ごっ、ごめんなさっ」
 うぅ…そりゃいつまでも乗ってる私が悪いけど。悪いけどっ!女の子にむかって重いっ…て…。
 わたわたと立ち上がろうとするが。
 「あ…れ?」
 「「巫女っ!」」「巫女様っ」
 その場に倒れ、私の意識は途切れた。


*********



 子供部屋と思われる和室に、10歳くらいの女の子が一人。星柄のパジャマ姿で布団から起きた状態でぼーっとしていた。
 「…?」
 どだどだと慌ただしく走る音がどんどん近づいてくる。
 「ゆっ、柚希ぃっ!!」
 息を切らし部屋に走り込んできたのは少女の8歳上の兄、五十嵐 新砂だった。
 「あれ、おにいちゃん。なんで?」
 元々片親だったが、その父も他界してしまってから柚希は叔母の家で生活している。新砂は高校の近くと言うことで、親が遺してくれた家に一人で暮らし、毎週日曜日に柚希の顔を見にこちらへ遊びに来るのだが、今日は土曜日だ。
 「透子(叔母)さんから電話があって柚希が熱だしたって」
 よほど心配だったのか、小さな柚希をぎゅっと抱き締める。
 「でもおにいちゃん、今日はまだらめさんと、なんとかはくに行くっておととい電話で言って」
 「気のせいだ!それより柚希、食べたいものないか?」
 心配そうにそう言いながら、腕にぶら下げた大きなスーパーの袋から次々に中身を取り出す。
 「ミカンにメロン、リンゴに西瓜にパインにヨーグルト、アイスにプリンにシュークリーム!」
 一体その袋にどうやって入っていたのか。柚希のまわりにゴロゴロと果物やデザートが転がる。
 「あと、苺のケーキとチョコのケーキがあるぞ?」
 別の袋を柚希の前に差し出す。こちらはケーキ屋さんで買ってきたらしく、袋の中には紙の箱が入っている。
 そうして全てを出し終えた兄は、じっと妹のこたえを待った。まるでプロポーズの返事を待つ求婚者だ。

「んと、さっきね、とーこちゃんがモモくれてお薬のんだの。だから…お腹いっぱいで…」

 瞬間、何かにうちひしがれて項垂れる兄。「透子さんに負けた…っ」と言いながら拳を震わせている。
 「ごめんね。せっかく買ってきてくれたのにすぐに食べれなくて…」
 申し訳ない気持ちいっぱいで謝ると頭を撫でてくれた。
 「いんや、柚希は何一つ悪くないからな!」
 でもおにいちゃん泣いてるよ?
 「――〜〜そっか。お薬飲んだか。良い子だ柚希!そんな柚希も兄ちゃん大好きだ!」
 (ほんとにもう、お兄ちゃんってばシスコンなんだから)
 「じゃあ横になって沢山休んでかなきゃな」
 「うんっ」
 元気よく返事をして横になった私に、優しく微笑み布団をかけてくれる。そして…

 (おでこにくっつけてくれた お兄ちゃんの手…)





 「………つめたくてきもちぃ」
 ぽつりとした自分の声で目が覚めた。夢からは覚めたのに、額には冷たい手が置かれている。
 ってあれ?今の夢だったよね…?この手
 「誰の…ぅおっ!?」
 「っっ!?」
 額の手に無意識に自分の手を重ねた瞬間、その手が凄い勢いで引っ込められた。
 そこに立っていたのは頬を赤く染め眉間にシワを寄せた、色白で長い銀髪の青年だった。が、次の瞬間には走って部屋を飛び出して行ってしまった。 
 「あー…」
 別にセクハラするつもりじゃ…。
 「ってゆか、誰?」
 答えてくれる人はいなかった。



優しい夢をみた後で・終



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