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その人を待つ部屋で




 「SosO:e…?」
 その言葉を紡いだ瞬間、一度は消えた筈のオレンジの光が3人を包みこんだ。
 
**********

 
 「そぉ、巫女が来たんだぁ…」
 良く陽の入る広い部屋にゆったりとした、そしてどこか色香漂う声が響く。声の主は低いテーブルに肘をつき、何やら考え事をしているようだ。しっとりとした黒髪が、はらりと肩から落ちる。
 「えぇ、昨日からキョウとヤタに探しに行って貰っています」
 答えたのは穏やかだが凛とした声。深緑の髪を持ったその人、チシュウは行儀良く正座をしている。

一昨日の晩、今この世界に必要な2つ目の月がでた。それはある人物がこの世界に出現した証。その人物を見つける為、昨日から、機転のきくキョウと鼻がきくヤタにペアで。そして単独でも問題が少ないカガリに1人で捜索しに出て貰っている。
 行けることならば自分も行きたかった。けれど、最低でもこの家には目の前の黒髪の男、シキを除いた5人の仲間のうち、誰かしら2人は残らなければならない理由があった。
 そんな訳で能力面を考えた結果、少し口惜しいが自分は待機する事に決めた…のだが。

 パンッ!

 「っ!?」
 いきなりの破裂音に不覚にもびくついてしまった。
 音源の方を向いてみる。どうやらその正体はシキが手を叩いた音だったらしい。
 「ひゃくごじゅうろくねんぶり…かぁ…」
 何やらポツリと呟いたがチシュウには聞き取れなかった。
 「シ…シキ、様?」
 一体いきなりどうしたと言うのか。ドキドキと速まる鼓動を落ち着かせつつ尋ねてみるものの。
 「んーん、なぁんでもないよぉ?驚かせちゃってごめんねぇ」
 と、理由は教えてくれなかった。

 このシキと言う人は、どうも掴めない人だった。信用してないわけではない。寧ろ信頼している。
まだ子供だった自分達が食べてこれたのは彼のお陰だし、怪我をした時だって、とても良く効く薬を毎回調合してくれる。
 そしていずれ自分達が必ず知るようになる事なのだが、普通の人が知らない世界の仕組みを、本来告げる者がではなく、シキが教えてくれた。
 とにかくそんな感じで約10年、世話になり一緒にいるのだが…不思議な事にシキと言う人は年をとらない。
 前に一度ヤタが、何で歳をとらないのかと質問していたが妖しく笑っているだけだった。

 「あーそう言えば、ユウヒはぁ?今日はユウヒを診に来たんだったんだよねぇ」
 ふと本来の用事を思いだし、シキが口を開く。
 ユウヒと言うのは今回自分と同じ待機組の青年だ。色白で綺麗な長い銀髪の持ち主。
 彼も家の敷地からは出れないのだから、そこらへん、すぐ近くにいるだろう。
 「そうでしたね、今呼んで来ましょう」
 と、立ち上がったその時だった。背後から何かが落ちた音と蛙を踏んづけたような声が続けてざまに聞こえた。
 後ろを振り返ると、そこには此処にいるはずの無いヤタとキョウが重なりあって、見たことの無い少女に潰されていた。

その人を待つ部屋で・終






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