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海!


夏休み。
夏休みと言えば海か山!
そうだ、まずは海に行こう!と、言い出したのは、私。
無理やりというか半場強制的に神田とラビとリナリーと、ついでに極最近仲良くなったアレンを連れて海に辿り着いたのは夏休みが始まってから数日もしないうちのとある日の正午のこと。
ぎらぎらと光る太陽の陽射しが眩しいし暑い。
水着に着替えたものの海についてから一時間もしないうちにバテてしまった私は、海で遊んでいるリナリー達を置いて一人パラソルの下に腰を降ろした。
ああ、暑くて死にそう。クーラーボックスに入れて冷やしておいた水を一気飲みしながらぼんやりと海を見つめる。
と、そこで私はさっきまで一緒に遊んでいたはずのメンバーの中にアレンの姿が見えないことに気がついて数度瞬きをした。

「あれ?」

「あれ?じゃありませんよ全く。何してるんですかこんな所で」

後から声がかけられる。
振り向けばそこには白髪頭の少年…、じゃなかった、アレンが居て私は目をぱちくりさせた。

「あれ?アレン?」

「だから、あれ?じゃないですよ」

言いながらアレンは私の隣に腰を降ろす。
私同様、クーラーボックスから冷たい水を取り出して口に含んだかと思えばアレンは空いているほうの手を伸ばしてきて私の髪に触れた。

「顔、真っ赤ですよ。暑いのが苦手なら海になんてこなければいいのに」

確かに私は暑いのが苦手だ。けれども海には行きたかったのだ。
そのことを告げるとアレンは不思議そうな顔をしてどうしてですかと首を横に傾けた。

「…だって、夏休みなんだよ?学校が休みなのよ?」

「はい?」

「学校が休みだと家にずっと一人で居なきゃいけないのよ。そんなの堪えらんない」

私には家族が居なかった。兄弟も親も親戚も誰も。
そのことについてどうこう思っているわけではないのだが、家に帰っても話し相手が居ないというのはとてもつまらない。
だから私はなるべく家に居たくなくて、夏休みがはじまるのとほぼ同時に海に行きたいと言い出した。
何泊かする予定なので当分は家に帰らなくてもいいだろうという目論みなのだが、はたしてそれは他人に話してもいいことなのだろうか。
思案しているとふいに辺りが陰った。
気がつけばアレンの顔が目と鼻の先にあって、私は声もなく目を瞠る。
アレンはにこりと微笑みながらこう言った。

「僕も家族は居ませんけど、別に寂しくなんかないですよ」

「…は?私がいつ寂しいって言ったのよ」

「言ったじゃないですか、たったいま」

「そんなこと言ってないわよ」

「僕にはそう聞こえました」

きっぱりと言い切るアレンに私は舌打ちをした。
というか、顔が近い。近すぎる。
ぐいと肩を押して顔を遠ざけながらついでに私は空いているほうの手でアレンの頬を思いきり抓ってやった。

「…なにするんですか」

やんわりと私の手を振り払ったアレンは、しかし半瞬後、何か思いついたような顔をしてぽんと手を叩いた。
さも素敵なことを思いついたかのような眼差しで私を見つめる。

「そうだ、僕と一緒に暮らせばいいんですよ」

「…は?」

「二人で暮らせば小鳥も寂しくないでしょう?」

いやいやいや、だから誰がいつ寂しいと言ったって言うんだ。
思わずしかめっつらになる私にアレンは優しく微笑みかけた。

「でも、少しは寂しいんでしょう?」

「そりゃあまぁそうなんだけど」

正直私は驚いていた。
だってそうじゃないか。まだ出会ってからそんなに経っているわけでもない、しかも出会い頭に大喧嘩をした相手がどうして私のことをここまで理解しているのだろう。
不思議で不思議でしょうがなかった。
だからこの時の私は、じゃあ決まりですねというアレンの言葉に不覚にも頷いてしまったのだ。
これから地獄のような日々が待っているということも知らずに。


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