彼女は笑っていた。 今でも笑っている。 閉じた瞳。 瞼の裏で彼女は笑っている。 初めての恋。 初めて繋いだ手。 抱きしめ合った温もり。 名前を呼ばれたこと。 ちょっとしたことで笑い合った。 ちょっとしたことで喧嘩した。 すぐに仲直りして、また笑い合ったけど。 ちょっとしたことで嬉しくて。 ちょっとしたことで悲しくて。 それでも、楽しくて。 何の繋がりもない他人が、こんなにも温かいことを初めて知った。 いつも口では言いきれないくらいの感謝で溢れている。 大切で、守りたくて、何よりも失いたくないかけがえのない彼女。 代わりなんていない。 世界でたった一人だけの彼女。 そんな彼女は今でも瞼の裏で笑っている。 少年の閉じた瞳から涙が一滴頬を伝って流れ落ち、次第にその一滴は線になり、止まらない流れになって、落ちていく。 [*前へ][次へ#] |