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無己な道化の戯曲



大切な彼はもういない。

その事実が胸に何度も突き刺さる。

彼を失くした空の躯は、僕という意志を彼の代わりに据えて、ただ世界に在る。

彼は消えた。
だけど、身体は消えてはくれなかった。
喪失は死へとは成らず、彼だけを失い、生を継続することを強要させた。

僕は彼を救えなかった。
何よりも大切で、代えなんて利かない、唯一無二の確かな存在だった彼を結果的に失ってしまった。

取り残された空の躯と僕。
与えられた選択肢など無かった。

彼を演じる。

それが、遺された僕に出来る事で、彼への償いだと、明示されていた。

だから、僕は彼として、この空の躯が朽果てるまで存在している。

幸い、彼が彼ではなく僕だということに気付く者は誰も居なかった。

所詮、他人は他人でしかない。
自分以外の存在を本質的に理解することなど不可能なのだ。

彼の言葉が甦る。
同時に、胸の奥に痛みが疼いた。

誰にも認識されない、彼。
彼だと浅はかな認識をされ続ける僕。

つまり。
彼だと認識されるが、彼ではない。
僕だけど、僕は認識されない。

今、此処で笑っているのは誰なんだろう。




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あきゅろす。
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