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clown's time



 ―――力なんていらなかった。


 天才等、天災でしかないとはよく言ったものだ。
 天から与えられた才など災いでしかない。
 普通でありたかった。当たり前になりなかった。


 何気ない会話を交わして、些細なことで笑って、下らないことで喧嘩して、仲直りして。
 夕日に向かって全力ダッシュ、なんて古臭いだろうか。

 とにかく、ありふれた生活がしたかった。ありふれていたかった。


 それが嫌で、力に溺れ、それで失敗したから、拒んだモノを望む。
 滑稽だろうか。都合が良すぎるだろうか。後悔とは詰まるところそういうものだと言えないだろうか。


 私は後悔することが許されないのだろうか。
 それはなんという酷刑だろう。


 そんな現実、ぶち壊してやりたい。

 壊して崩して砕いて潰して粉々に微塵に跡形もなく後付けもできないくらいに、殺して死なせて消して滅してやりたい。

 けれど私は現実にいない。もう居ない。


 私は誤ったのだ。
 間違った。
 どうしようもないくらい。
 どうにもできないくらい。
 

 けど、許されたい。
 戻りたい。

 そんな誰もが望むようなことを、求めてはいけないのだろうか。


 きっと、駄目なんだろう。
 誰も彼も否定するんだろう。

 私は異質で異端で異形だから。
 私は災いだから。
 存在が、身体の端から端、その隅々、手垢に至るまで、私という全てが害だから。


 悲しいほどに哀しく。
 淋しいほどに寂しく。
 大切なほどに切なく。
 怒れるほどにイカれた。
 出来損ないの欠陥品。

 世界を壊してしまうほどのバグ。


 だから、否、ならば。


 壊してしまえ。


 全て、思い出さえ失うほどに何もかもを奪い消し去るほどに、消し炭にしてしまえばいい。

 全て消えれば、私は許される。
 唯一で全てになった私が許す。


 声が、聴こえる。
 なんだろう。
 壊せばいい、なのに。
 音が、聴こえる。
 抑えつける。
 鎖のように。
 けれど、痛くない。



 壊せばいい。
 声が、出る。
 全てを消せ、と。
 その為の力だ。

 圧倒的に。 暴力的に。
 絶対的に。
 蹂躙しろ。
 君臨しろ。

 大いに力を振り回せ。



 あはははははははははははははははははははははははははははははははは。



 私はひたすら笑った。
 笑うしかなかった。
 だけど、涙が流れた。



 もう全てがぐちゃぐちゃのめちゃくちゃなんだ。



♯clown's time*END*


 

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