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忍故に(日記より/幸佐?)
旦那の瞳に俺は映らない。
何時だって旦那が気にかける人物は別の人。
旦那の心に居るのは別の人。

どんなに近くに居たって旦那は俺様の存在に気付かない。

「胸が滾る、この感情は…」

ほらね、こんな近くに俺が居るのにその瞳に映しているのは独眼竜。心に居るのは独眼竜。きっと俺の存在なんか忘れちゃってるんだろうね。目の前のお方と対峙した時、少しでも俺の存在を頭に過らせたことある?旦那は真っ直ぐなお人だから、きっと無いだろうね。
でも、別にいいんだ。だって俺は忍びだから。忍びが感情を宿すなんて御法度。それも主に恋心なんて許されたモンじゃない。この感情を旦那に知られちゃいけないんだ。だから俺は仕事の事だけを考える。目の前にある仕事の事だけを。

「さあて、旦那の邪魔をされちゃ困るからね。右目の旦那には俺様の相手をしてもらいましょうか」

私情なんか挟まない。今やるべき事をやるだけ。感情を捨てるなんて忍びには簡単なこと。簡単な事の筈だったのに少しばかり失敗した様だ。独眼竜の刀の先が旦那の頬を掠めた瞬間、意識がそっちに奪われた。右目の旦那は余所見なんかしていられる相手じゃない。だから一瞬の隙を突かれた。首元の突き付けられた刀、どうやら逃れる術は無い。

「佐助!!」

覚悟は決めたというのに何時まで経っても大きな痛みが身体を駆けることがない。何が起こったのだと顔を上げると二本の槍が右目の刀を止めていた。

「…旦那?」

「無事か、佐助!」

「片倉殿、それに政宗殿。勝手を承知で此度は此れにて引かせて頂く」

「ちょ、旦那?」

状況が理解できないまま立ち去る旦那の後を追う。独眼竜の旦那達は旦那の発言を受け入れたらしく追ってくる事がない。好敵手を前に、それも漸くお互いの都合が合ったというのに何故身を引くというのだろうか。次は何時機会があるか分からないというのに。

「佐助、余所見をするなど精進が足らんぞ」

「え?あ、うん…って何で俺様が余所見したこと知ってるの?」

「…見ていた、からな」

「…旦那?」

「早くお館様の元に戻り、再び鍛錬に励むぞ。同じ失態は許されないからな!」

先を行く旦那の耳が少し赤いのが分かる。それが旦那の不器用さを物語っているようで何だか可愛く見えた。

忍びが恋なんかしたら許されない事は分かってる。無駄な感情を抱けば抱くほど仕事の邪魔になるだけ。でも今だけは旦那の瞳に俺が映っていたことを、旦那の心に俺が居たことを喜んでもいいだろうか。忍びでなく一人の人間に戻っても許されるだろうか。

「先に手当しないとね」

この先もその瞳に俺を映してなんて言わない。恋心を口にすることは無い。もし口にしてしまえば、それがこの先旦那の進む道の邪魔になることを分かっているから。そして何よりも俺様は忍びだから。忍びとしての役目を果たしていくだけ。

でも、偶に想うことは許してよね。旦那。



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何となく佐助の片思いが書きたかったんだけど、気付けばそんなこともなかったような。幸村と佐助の場合は割と切ないのが好きです。結ばれる前辺り。



あきゅろす。
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