人よ恋せよ(政小?←慶次)
「恋してんだろ?」
…また面倒臭い奴が来たもんだ。
そろそろ夏野菜の収穫が近く、あと少しで丹誠込めた野菜たちを政宗様へ贈ることが出来る。そんな事を考えると自然と気分も向上してくるものだが、コイツが現れるとどっと疲れが出る。別にこの奥州の地に害を成すって訳でも、政宗様に手を出されるって訳でもない。だが俺にはコイツの言葉は理解しがたいのだ。
「用がないなら帰れ、邪魔だ」
「折角遊びに来たんだ、少し冷たくないかい?」
「テメェの相手をしている程暇じゃないんでな」
「しょうがない、じゃああんたの主に相手でもしてもらうかねえ」
「……」
前田の風来坊は先に支障が出るような戦いはしない。本人がよく口にしている通り喧嘩の域だってのは分かってることだ。故に大して気にする必要もないが、万が一のことを考えると気が気じゃなくなる。だからこそコイツは厄介だ。それを分かっていて話題を振ってきやがる。それが策なのかは判断しがたいが、此処で相手をしたらコイツの思う壷になる。あとは土足で深層に入り込み、余計なお節介を残していく。
「あれ、止めないで良いのかい?」
「…帰れ」
「大事なんだろ?あんたのその目は恋してる目だ」
「従者として言ってんだ。生憎と俺は恋だの何だと歯痒いモンは苦手なんでな」
「ははは、相変わらず堅いねぇ」
確かに大切な存在ではある。主であるからと言うのもあるが、幼き頃から見てきてるんだ。そりゃあ誰だって大事に思うものだろう。だからって何故それが恋愛感情に繋がるというのだろうか。何でもかんでもそういう方向に考えられては困る。理解が出来ない。
「仮に聞くがテメェはどうして俺が恋をしてると思うんだ?」
「目を見れば分かる」
「それじゃあ答えになってねェだろ」
「なら、顔に書いてある」
「……」
何気なく質問したことだったが、相手をしたことが馬鹿らしくなる返答だ。恋をしている自覚もないってのに顔に出るなんてことがあるのだろうか?
「俺はあんたが誰に恋してるなんて一言も言ってないけど、俺の言葉を聞いて脳裏に浮かんでる人物が居るんだろ?」
「それはテメェが政宗様を連想させるような言動を言うからだろうが」
「そりゃあ、何度も通ってれば相手も分かってくるって」
釈然としない。思うように導かれている気がする。やはりコイツの相手をするのは苦手だ。口を閉ざし農作業に集中してみるもどうも身が入らない。ふと横目でこのお節介な奴を盗み見ると何をする訳でもなく木の下でのんびりと昼寝をしていた。まったく人の心を乱しておいて呑気なモンだ。
「荒らすんじゃねェぞ」
ここまで大事に育ててきた畑だ。身が入らない時は下手にいじるものじゃない。今日は諦めて作業を止めると農具を片し、荒らさせない為にとまだ少し早いが食べれなくもない野菜を二つ三つもぎ取って籠に入れた。それを居眠りしている奴の側に置いたら起こしちまったらしい。焦点の定まりきってない面で見てくる。
「ねぇ、あんたが隠し続けるなら…俺本気になって良い?」
「…何を言ってやがる」
「本気であんたを口説くよ」
コイツはどれだけ引っ掻き回せば気が済むのだろうか。ほんの数秒前まで寝ぼけ眼だった奴が、気付けば真っ直ぐにこっちを見てくる。とてもでないが冗談を言ってる顔じゃない。冗談だとしても質の悪い話しだが、冗談の方が幾分もマシだと思う。
適当に受け流そうと瞬時に思考を巡らしてみるが、人ってものは急な事態には対応が悪いものだ。それじゃなくても今日は心情が穏やかじゃない。普段ならば流すことも出来ただろうが、コイツによって既に乱されている。僅かながら狙って言ってるのだろうかと思えてきた。
「馬鹿げた事言ってねェで。とっとと帰れ」
「少しで良いから考えてくれよ!」
「野菜やるから諦めろ」
俺はコイツが苦手だ。恋だ何だと温いことばかり言いやがる。ある意味何処かの宣教師と変わらないのではないかと思えてくる。本気で言ってくる分、宣教師より遥かに質が悪いのだが。頼むからこれ以上引っ掻き回すのは止めてくれ。
木の下に前田を残したまま城に戻った後、政宗様と擦れ違った。政宗様は何か言いたげにしていたが、今はあまり顔を合わせていたくない。申し訳ありませんと一言だけ残すとそのまま自室に籠もる。
その後暫くの間、俺は頭を悩ませる事になるのだった。
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リハビリ作。
もっと明るいギャグにする予定だったのに気付いたら、慶次が小十郎に片思いしてるし、小十郎はご乱心だし。
てか「政宗←小十郎←慶次」ですね、これ。
政宗も政宗で小十郎に片思いしてたら面白いと思う。いっそ慶次に片思いしてたら面白いと思う(笑)
此処まで読んで下さり有難う御座いました!
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