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届け、この想い(政→小?)
そろそろアイツが書物を読み終えて布団に入る頃だろう。その証拠にヤツの部屋は明かりが消えて暗くなっている。俺はこの時を待っていたかのように、これで何度目になるか分からない台詞を吐きながら襖を勢い良く開けた。


「小十郎、今日こそ抱かせろ」


初めてこの言葉を口にした時は流石に動揺したらしく目を泳がせていた小十郎も、最近ではすっかり聞き慣れたようで相手にしない。それでも諦めずに毎晩通い詰める俺は何て健気なんだろうか。
だから今日も軽く流されるだろうと覚悟をして来たが、今日の小十郎はいつもと様子が違うようだ。普段ならば俺を軽くあしらい、さっさと布団に入って寝る体勢を取るところが、まるで俺が来るのを待っていたかのようにきっちりと姿勢を正し、正座した状態で俺を見ていた。


「政宗様、毎夜小十郎の寝床に訪れるのは大変かと思います」


月明かり以外にこの部屋を照らす物はない。よって正確に小十郎の表情を捉えることは出来ない。しかし今の小十郎は何処かよそよそしく、少し恥じらっているように感じ取れた。
これはついに俺の気持ちに応える決心が着いたか?わざわざ俺が来るのを待ってたんだしな、可愛い奴め。そうならそうでお前から来てくれても良かったのによ…などとどうせ勘違いだと分かっていながらも期待半分に浮かれた事を考えていれば、ゆっくりと開かれる愛しい人の口。


「ですから、政宗様に差し上げる覚悟を決めました…」


…what!?この男は何と言った?自分の耳を疑って止まない。何度もたった今吐かれたばかりの言葉を自分の脳内で反復させる。
実のところ諦めている部分もあった。半ば自棄だったとも思える。それでもこうして懲りもせずに毎晩訪れては想いをぶつけた。そして玉砕しては情けなくふて寝を繰り返してきた。そうやって長きに渡り伝えてきた想いがついに伝わったという事なのだろうか?幼少の頃から少しずつ育ってきた想いがこの男に伝わったと良いことなのだろうか?
どうしよう、これは嬉しすぎる。嬉しさのあまり目の前が少し霞んできたし、心臓の音が五月蝿い。正直何処までも情けない自分に呆れるが今はそれどころじゃない。一刻も早く、この愛しい人と繋がりたい。焦る気持ちを胸にゆっくりと小十郎へ手を伸ばせば触れる柔らかい感触。

……柔らかい?

女でもあるまいし小十郎が柔らかいなど有り得るのだろうか?そもそもコイツは俺よりも筋肉質でがっちりとした体型をしてる。肩幅だって俺よりも全然広いのだ。その小十郎がこんなフニャフニャな感触をしている筈がない。


「小十郎、これ…」

「政宗様がどうしても何かを抱かなければ寝れないようなので、小十郎の愛用品ではありますがお使い下さい」


小十郎へ向けた視線をゆっくりと落とし、手に触れた物をよく確認してみる。しかし月明かりしかない部屋では己が影を作ってしまいよく見えない。仕方なく小十郎に背を向け月明かりの下にそれを出すと其処には俺が描かれたcushionがあった。
落胆よりも呆気に取られて言葉が出ない。何処から突っ込めばいいのかも分からない。期待から五月蝿く高鳴った心臓も今は凄く静かだ。
取り敢えずこのまま固まっていても仕様がないと何とかして頭の中を整理し、小十郎に背を向けたまま一つだけ質問をすることにした。


「お前、いつもコレを抱いて寝てるのか…?」

「はい、結構な抱き心地です。これで政宗様も快眠が出来るかと」

「…そうか」


コイツは悪気があるわけではないんだろうな。その証拠に俺に掛けられる声は凄く明るく真っ直ぐだ。
俺はそんな真っ直ぐな小十郎の前に居るのが辛くなり今日も無残に散ったまま自室に戻っていった。

小十郎から貰ったcushionを片手に。









「小十郎のヤツ、俺に俺を抱いて寝ろって言うのかよ。そもそも抱くの意味が違ェ…あ、でもコレ凄ぇ小十郎の匂いがする」

自室に戻った政宗は自分が絵が描かれたクッション相手にブツブツと文句を並べながらも抱き締めてみると、伊達に愛用していたわけではないらしい。しっかりと染み付いた小十郎の匂いに悶々と寝れない一夜を過ごすことになるのだった。



おしまい

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案外片思いって訳でもないよ、うん。
政宗のクッション抱いて寝てた訳だし、うん。

私の書く政宗は報われないな。


ゴミ箱に載せた楽描きの補足を書いてたら少し長くなったから小説にしたっていう駄文でしたが、最後まで読んで下さり有難う御座いました!


あきゅろす。
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