四月馬鹿(政小?)
嘘でもいい。
彼奴の口から、片倉小十郎の口から「好きだ」という言葉を聞きたい。
俺と彼奴の関係は主人と家臣で、頭の堅い小十郎は仮に俺をどんなに慕っていたとしても、好意を抱いていたとしても、その言葉を口にすることはないだろう。その事は俺が一番理解している。理解はしているが、自分が好意を抱いている人物の口から聞きたくなってしまうのは人間の欲なのだろうか。
俺に対して恋愛感情がある筈がないことを分かっていたとしても…。
「なぁ、今日は4月1日だぜ」
「だから何だというのですか?」
…だよな。4月1日だから何だっていうのは正論だ。行事となれば直ぐに騒ぐ奴もいるだろうが小十郎はその類の人間ではない。だからいつも俺が一人で騒いで小十郎を巻き込むという形になる。それでも呆れはするものの、結局は俺に付き合ってくれる右目は案外健気だと思う。
「俺が好きだって嘘吐けよ」
「何が言いたいのかは理解しましたが、嘘の内容を相手に決められているのはどうかと」
「いいから吐けよ…」
Ah…、溜め息を吐きながらそんな目で見るな。呆れを通り越して哀れむような視線を向けるな。分かっている、自分でもどれだけ馬鹿なことを言っているのか。これじゃあ、四月馬鹿どころかただの馬鹿でしかないことも。幾ら小十郎の口から“好きだ”の一言が聞きたかったからといって、これは失言だった。仮に言ってくれたとしても嘘になるわけだから“嫌い”という意味になる。もし行事云々関係なく命令されたから言うのだとしたら、他意はなくともこれほど虚しいことはない。
「政宗様…」
おいおい、呆れを通り越して苦笑か?
自分で招いた事だが泣けてきた。
恐らく俺は今とても情けない表情をしているだろう。それを小十郎に見られるのが嫌で自分の脚へ顔を埋めれば、そっと暖かいものに身体を包まれた。あまりにも予想外の展開に肩に力が入る。
「好きです」
冗談きついぜ。こんな状態でそれを言われたら勘違いするだろが。恐らく小十郎は普段俺がどんな目で見ているか気づいている。知っていてのこの行為、案外惨い嘘の吐き方するんだな。
「知っておりますか?」
「…なんだよ」
「嘘を吐いても許されるのは午前だけですぞ」
午前だけ?そうだとすれば今は日も暮れて月が浮かび、闇が支配しているのだから間違いなく夜。つまりは午後になる。では嘘を吐いてはいけない時間帯なのにこの右目はさっき何と言った?理解しきれない。
「…それも嘘か?」
「嘘ではありません」
危うく忘れるところだったが、今日はApril foolだ。嘘を吐いても許される日。何が嘘か、何が真かもわからないければ、疑心暗鬼に陥ったって可笑しくもない日だ。
真実を確かめるべく顔を上げれば笑みは浮かべてるものの、嘘を吐いているようには見えない真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。尤も嘘を吐いていたとしてもこの男なら顔に出さないだろうが、それでも長年の付き合いが吐いていないということを確信させる。
「信じるからな!取り消しはなしだぜ!?」
「如何様にも」
最後にもう一度だけ確認をとった後、自分よりもしっかりとした背中に腕を回し強く抱き返して、愛しい人へ俺からも想いを告げた。
終
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はい、ここまでお疲れ様です。
なんか三作目にして一番反省点が多い気がする話でした。
今更四月馬鹿だとか。
この時代にまだ四月馬鹿が存在してないとか。
今更付き合うまでの話だとか。
この小十郎は何を考えて告白したんだか分かんないとか。
政宗様が情けなさすぎるとか。
結局攻めはどっちなんだとか。
あんたら何処にいるのとか。
―教訓―
時間に余裕ない時に書くものじゃない。
でも行事ネタは一通りやりたい(笑)
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