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記憶(日記より/政小)

「もし俺が記憶を失ったらどうする?」


この方は何を唐突に仰るのか。
筆まめな割に政務となれば直ぐに逃避することを考える。今だって机に向かっているとは言え、筆が全く進んでいない。それでもやる時はしっかりと遂行なさるから厄介なもので、散々逃げ回っていたと思えば期日には全て終わらせていたりするのだ。
こうして俺が見張っているからなのか、それともこの方の計算なのかは未だに分からない。


「松永に吹っ飛ばされて崖から落ちた事があっただろ。もしあの時、記憶を飛ばしちまってたらと考えてな。」


何故今更あの時の事を考えているのだろうか。それもこの政務が溜まっている状態の中で。とは言えあの時の記憶は鮮明に残っている。おそらくは何十年経とうと忘れることはないだろう。
松永はもうこの世に存在しない。しかし未だにヤツのことを考えると腸が煮えくり返りそうになるのだ。

そんなことを考えていると主の視線が真っ直ぐに向けられていた。それと同時に質問を受けていたことを思い出す。


「…取り敢えずは殴る、でしょうか。」

「お前、記憶を失った主を殴るってのか?」

「それで政宗様の記憶が戻るというならば何発でも殴ります。」


言葉が無くなった。恐らくは今し方俺が言ったことを想像したのだろう。僅かながらに顔の色が悪くなったように見える。


「記憶が戻り次第その罰は…。」

「腹を斬ると言ったらそれこそ許さねえからな。」

「ならば政宗様がお考え下さい。」

「Oh!それなら三日三晩連続でってのはどうだ?」


直ぐにこういう考えに行き着くのは若さ故なのだろうか。幾ら主だとはいえ、時折付き合いきれないと感じることがある。
それでもこの方が俺にとっての唯一であり、大概のことを許してしまうのは本来ならば許されない感情を抱いているからだろう。


「もし小十郎が記憶を無くした場合、政宗様はどうなさるのですか?」

「Ah-,ぶっ放すな。」


ぶっ放す、殺すと言うことだろうか。確かに己の主を忘れるというのは許されたことではない。もし記憶がない事によりこの方に斬り掛かった日には、俺は己を許せなくなるだろう。だから政宗様は俺の為に命を奪ってくれると仰るのだろうか。何ともお優しい方だ。


「オレを忘れるなんざ許さねえ。小十郎は自らの手で自らの大事なモノを奪えと言うのか?」

「それは…。」

「だから何があっても俺だけは覚えていろ。」


無茶を仰るお方だ。鬼と称されようが小十郎とてただの人間。何があるかも分からなければ防ぎきれない事態もある。それでも不思議なものでこの方が望むならば、何があろうともこの方だけは忘れない気がしてくる。


「ならば政宗様も小十郎を忘れないで下さい。」

「Ah?」

「今の小十郎には貴方に他人の様に接されて耐えられるかどうか…」

「……ッ!So cute!!」


抱き締めてくる腕の温もりを心地良いと感じる。それと同時に己に似つかわしくない女々しい感情に反吐が出そうになった。たった今自らで口にした言葉も気色悪く思う。政宗様は喜んでいるようだが、何回経験しようとこういう空気には慣れないらしい。


「政宗様、もう一つお願いが。」

「今なら何だって聞いてやるぜ!」

「この溜まった政務を済ませて下さい。」

「Oh my…食えないヤツだ。」


もう少し俺が若かったら、立場も弁えず素直になれただろうか。この方と同じ様に、真っ直ぐ感情を伝えることが出来ただろうか。



――悩むだけ無駄だという事を教えてくれたのは、愛しい主の表情だった。





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ネタ提供があったらしい、物。 ラブラブ好きです。


あきゅろす。
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