[携帯モード] [URL送信]
豆喰らう鬼 3


     3


「何をそんなに怒っているんです?」

店先から無理矢理離れに連れ戻された一太郎は、それはそれはたいへんへそを曲げていた。
だが当の原因である仁吉は、この機嫌の悪さをなんとも気にせず、一太郎に有無を言わせないまま床へと寝かしつけてしまった。

「若だんなの大福を、あたしが食べたから怒ってるんですか」

「なんでそうなるんだい。私が言っているのは、鳴家のことだよ!」

おまけにこの兄やはどこまでも鳴家に無頓着だった。一太郎の話を聞いてるのか聞いてないのか、「後でまたお持ち致しますよ」と豆大福の話ばかりだ。
先程よりも頬を膨らませて仁吉を睨むと、仁吉は少し困ったような顔をしてからしばし考え、すぐに「ああ」と心得えたように手を打ってから、口の端を上げてにやりと笑う。

「若だんなは鳴家が長崎屋にいることがお気に召さないんですか」

「……仁吉、本気で言ってるのかい?」

あまりに呆れた仁吉の物言いに、若だんなは叱る気もすっかり失せてしまう。だがそんな若だんなを見て、仁吉が違うんですかと真顔で聞き返してきたので、若だんなはまた新たに溜息をつくことになった。

「違うったら!いいかい仁吉、よくお聞き。私は鳴家達を捜したいんだよ」

「それはまた、なんでですか若だんな」

「同じ家の中に居るのに、鳴家達が隠れている理由なんてないだろう。おかしいと思わないのかい?」

一太郎がそう言っても、手代の顔はまだどこか不納得だ。

「明日になれば会えるじゃないですか。小鬼といっても鳴家は鬼。節分の今日、どこぞに隠れている方が鳴家達もいいのでは」

この一言を聞いた一太郎は、むっとして手代から思いきり顔を背けて床から立ち上がった。
慌てて己も立ち上がり、寝かそうと近寄った手代を、真正面から上目遣いで睨み付ける。

「別にいいんだよ。鳴家を捜すのは私一人でやるからね」

ぷいとそっぽを向いて寝間から居間に出て庭に降りようとする若だんなを、仁吉がすぐに止める。

「そんな薄着で庭なぞ歩いたら風邪をひいてしまいます。いけません」

「…だったら家の中から捜すよ。仁吉、邪魔するんじゃないよ」

どうにも若だんなの機嫌を損ねてしまったらしい。
今後は仁吉が軽い溜め息をつく。だがその溜め息がつき終わるか終わらないかという所で、手代は若だんなを両手でひょいと抱え上げてしまった。
女子のように抱え上げられて、顔をさらに赤く染めて抗議する若だんなを床に戻してから、その隣にきちんと座り直しその口を開く。

「わかりました、鳴家達を捜してみましょう」

「……本当かい?」

まだ頬を赤く染めたまま、一太郎がおずおずと床の上から仁吉を見つめる。

「ただし、若だんなにはきちんと寝ていていただかなくては困りますよ」

にこりとたいそう優しく笑ってから、ぽんぽんと軽く夜着の上から手を打って、一太郎を落ち着かせながら仁吉が言った。「わかったよ」と些か心許なく一太郎が返事をすると、では早速準備をしなくてはと仁吉が立ち上がった。

「どこに行くんだい、仁吉」

まさかこのままはぐらかされたのではたまらないと、若だんなは立ち上がる仁吉の袖をぎゅっと掴んだ。その手を仁吉が優しく放し、夜着の中に戻してからにたりと笑う。

「大丈夫ですよ、若だんな。捜すんじゃぁないんです。鳴家を誘(おび)きだすんですよ」

それだけ告げると、手代はすぐ側の木戸から「ちょっと三春屋へ」と言って出ていった。




[←][→]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!