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陽光(リメイク前)
不思議な男の子


「!?」

 びっくりした私は、後ろを振り返る。そこには誰もいなくて、さっき腰掛けていたレンガと、それに囲われた茂み。そこからさらに奥へ視線を向ければ、いくつもの桜の木が立っていた。

 ……なんだろう。……なんとなく、人の気配は桜の木の方から感じる気がする。

 私は誘われるように、レンガを跨いで茂みの奥へ向かった。


 そこにいたのは――。



「……!」

 私は、自然と目を見開いていた。
 桜の木に囲まれた、外からは見えないこの場所に。

 ――木に寄りかかって本を読んでいる、男の子がいた。

 その姿は一枚の絵みたいに……背景の桜と合っていて。空間を、空気を、切り取ったみたいで。私は一瞬で目を奪われていた。


「…………」

 男の子は切れ長の目を伏せて、手元の本に視線を落としていて。ページをめくる手以外は、ぴくりとも動かない。私の存在にも、気が付いていないみたいだった。

「……」

 私も、なぜかその場から動けなかった。
 それはまるで、時間が止まったようで。私は男の子の小さな一挙一動を、じっと見つめていた。

 ――……風が、緩やかに私達の間を吹き抜けて。桜がひらひらと舞い散っていく。


「……あ、あの……」

 いつまで黙って見つめていただろう。私は気が付けば、声をかけていた。

「…………」

 ……けれど、男の子は全くの無反応。気が付いていないのかなと思って、何度かその場で声を上げても、やっぱり反応はなくて。

 ……まさか、無視されてる? そう思った時だった。


「…………」

 男の子が、顔を上げて。ぼんやりとした目つきで、私を見返した。

 なんだか、あまり生気が感じられないというか……独特な雰囲気を持つ人だ。だからこそ、周りの背景と合ったのかもしれないけど……。


「……僕に、……話しかけているのですか?」

 男の子からの第一声。どうやら、私の呼びかけは自分に対するものと思ってなかったみたい。
 ここには私達ふたりしかいないのに、誰に話しかけてると思ったのかな……。

「う、うん。そう、です。……えーっと。あなたは、新入生の方ですか?」

 ぼそぼそとしたしゃべり方をする男の子に、私は問いかける。何でかな……なんとなく、彼と会話がしたくなっていた。


「……はい。……新入生……です」

 いくら敬語で問いかけたとはいえ、これで向こうが先輩だったら土下座モノだったんだけど……それは回避したみたい。

 私は自分も新入生であることを伝えて、さらに彼へ質問を投げかけてみる。


「私はC組の光咲ひなた。あなたは?」

「……」

 一瞬だけ、男の子は口を噤んだ。でも、すぐに口を開いて。


「……風羽、夜月(かざはね よづき)。……同じく、C組です」

「――えっ!?」

 風羽くんの言葉に、私は思わず声を上げる。えっ、じゃあさっきのHRに普通にいたってこと?

 やばい……ぜんっぜん気付かなかった。

 ってことはつまり、私は今までの会話で『教室であなたを見たかもしれないけど覚えてないヨ!』ってバッチリ告白しちゃってたってことに……!


「ごごごごめんね! 私、ホント記憶力悪くてバカでっ! 本当にごめんなさい!」

「……別に……僕も覚えていなかったので……」

 抑揚のない声で風羽くんは言う。しかもずっと無表情だから、何を考えているのか正直分からない……少し怖いかも。


「…………どうして」

「えっ?」

「……どうして、……ここに?」

 内心焦りっぱなしの私に、風羽くんは聞いてくる。その表情からは、やっぱり何の感情も私には発見できない。


「どうして、って……えっと、なんとなく……ここに人の気配がするなって思って」

「…………」

 ――えっ、私なんか問題発言してた?!
 ホントにもう、質問に答えたら無言、無表情で返してくるとか怖いって……!


「……じゃ、じゃあ……私はそろそろ行こうかな……失礼しました……」

 結局、私はそう言って逃げるように背を向けて歩き出した。自分から話しかけておいてなんだけど、会話にここまで困るとは思わなかったから……ね、うん。


 少し歩いたところで振り返ると。風羽くんは私との会話なんてまるで無かったかのように、手元の本に顔を向けていた。
 それは、最初に見た時と全く同じ空気を纏っているように、私には感じられた。


 ――同じクラスなんだよね、風羽くん。

 穂乃花や土盾くんとはまだ大丈夫そうだけど、風羽くんとはあまり合わない気がする……。

 そんなことを考えながら、私はその場を後にした。


 ――まさか、次の日。

 クラスの実習グループ分けで、穂乃花や土盾くんと……――そして風羽くんと、一緒になるだなんて。

 この時の私は、夢にも思わなかったのでした――……。



End.




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