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陽光(リメイク前)
幕間――2


「もうすぐ、HRが始まるし……席に着かないと、細川先生に怒られちゃうよ」

 彼女が急に僕を避け始めたのは、その悩みが大きく膨れ上がっていた時だった。

「…………」

 僕の顔を見ないようにしているのか、彼女は広げたノートを食い入るように眺めている。

 ――ねえ。僕が、君に何かしましたか? ……なんて、聞ける筈もなかった。

 だって、僕が彼女に何もしていない時なんて、無いから。

 今回も、今までと同じ。『僕が彼女に酷い事をしている』――その事実が、有るだけだから。

 でも僕は……彼女に、元気になって欲しい。心から、そう思った。
 今までのように、いつまでも彼女に甘えていてはいけない。

 僕は彼女に救われてばかりで、何も返せていないのだ。
 だから僕は、少しでも彼女の役に立ちたいと思った。
 ……情けない話だが、彼女がこんな状態にまでならなければ、弱気な僕はきっと何も実行に移せなかっただろうけれど。


「……もし、君が良ければ。……今日は、学内を少し歩きませんか」

 僕は勇気を振り絞って彼女を誘い、色々な事を話した。
 それが楽しい話題だったか自信はない。けれど、必死に考えた。次はこの話で、次はこれと、話が絶えないようにした。
 多くの話題の中のひとつでもいい。彼女がほんの些細な事でも、元気を取り戻してくれたらと。

 ――けれど。
 僕が何を話した所で、彼女の表情は曇ったままだった。

 そして、いつしか感情のままに言葉をぶつけてしまっていた罰だろうか。
 核心に触れようとしたその瞬間、かつての親友とそっくりの『彼』が現れて、それで。


「……ふふっ」

 僕が何を話しても、辛そうな顔をしていた彼女が――彼の前では、笑ったのだ。

「……!!」

 それを見た時の僕の衝撃は、どんな言葉を持ってしても、足りないように思う。

 彼女達は、晴れやかな笑顔を交わしていた。
 そこに、僕の入る隙間なんて、なかった。

 ああ……そうか。
 笑っている彼女を見つめながら、僕は納得した。


 ――僕じゃ、駄目なんだ。
 昔と違う僕じゃ、無理なんだ。

 僕は、誰にも必要とされてないんだ――。


 僕は、馬鹿だ。
 彼女の元気がない原因が自分だと分かっているなら、さっさといなくなれば良かったんだ。
 自分が彼女を元気にしたいだなんて、何を自惚れていたのだろう?
 僕の一方的な好意なんて、彼女にとっては迷惑でしかないのに。

 ――……もう、彼女の顔を見たくなかった。優しい言葉を掛けないでくれと懇願した。

 でなければ、僕はどうしても、期待してしまうから。


 彼女達から逃げて、誰からも逃げて、ひとりになる。
 優しい彼女はまた、僕のせいで悲しそうな顔をしているのだろう。

 ……でも、きっと『大丈夫』だ。
 だって、彼女の傍には彼がいるのだから。
 すぐにでも、彼女の笑顔を取り戻してくれる。
 ……僕の目の前で、そうしてみせたように。


 思えば僕は、いつだって間違った選択ばかりしていた。……それは、果たしていつからだろう?

 彼女に正体を明かした時?
 彼女と出逢った時?
 母に心を閉ざした時?
 親友に弁明しなかった時?
 父を助けなかった時?

 ――……もはや、自分が生まれてきた事自体が間違いのように感じられた。

 自分がいなければ、関わってきた人みんな、幸せだったのではないかと思った。

「……っ……」

 頭が、痛い。胸が苦しい。
 『つらい』なんて、誰にも言えるわけない。

「――ぼくは、どうしてここにいるんだろう……?」

 結局、今日もまた。
 僕は独りで、膝を抱えていた。



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