陽光(リメイク前)
それは、どちらの好き?
「どう……って」
――夜月くんのことを、どう思っているのか。私にとって、夜月くんがどういう存在なのか。
今まで、そんなこと考えたこともなかった。――夜月くんがいて、一緒に話してくれる。それだけで、満たされていたからかもしれない。
だから、私は答えに詰まった。
「ただのクラスメイト? 友達? それ以上?」
矢継ぎ早に言葉を重ねてくる穂乃花に、私は困り果てる。
……分からない。ただのクラスメイトでは絶対ないけれど、かと言って友達……という単語で括るのも、微妙に違うような気もして。
「……た……大切な人、……だよ」
かなりの間悩み続けた結果、私はひとつの答えを出す。これだけは間違いないと思える答えだ。
「大切な人、ねえ。それはどういう方向の?」
方向……? 意味合いが伝わってこず、私は首を傾げる。
すると穂乃花は、頭が痛いとばかりに額を押さえながら、あからさまに大きな溜め息を吐いて。
「つまりぃ。普通に人として好きなのか、それとも異性として好きなのかってコト」
「……!!」
――まるで雷が全身を貫いたような、衝撃を受けた。
……おかしい。『好き』という言葉は二回出て来てるのに。なぜか、二度目――恋愛として放たれたそれに、胸の内は強く反応した。
――好き? 私が、夜月くんを、男の子として?
「なっ……ないよ、そんなこと……」
「おや? あたしはただ、どっちの意味で好きかって聞いただけなのに。やけに顔が赤いですねぇ」
「う……」
穂乃花は意地悪な眼差しを向けてきて。私を追い詰めるように、言葉を重ねる。
「なんでそんな否定するかねぇ。初恋の相手なんだから、今さら別に恥ずかしがらなくたって」
「ち、違う! そういうんじゃないってば!」
穂乃花の声を遮って叫ぶ。――周囲の人から再び迷惑そうな視線が向けられ、居心地の悪くなった私は身を縮こまらせた。
とにかく自分の顔の熱を冷ましたくて、ティーカップの中身を飲み干す。……うぅ、生温い上に甘ったるい……。
「なに? じゃあひなたは、風羽クンの言動に一度も、ただの一度も! ドキッとしたことがないと言い切れるの?」
「……!!」
――私の脳裏に、夜月くんの顔が浮かぶ。
『……僕は、……初めて逢った時からずっと、君の笑顔が好きですから』
あの時の、夜月くんの笑顔。固く結ばれていた糸が解けたような、柔らかい笑み。
そして、『ずっと君の笑顔が好き』という、思いがけない彼の言葉。――私はそれらに、心臓を鷲掴みにされたようだった。
他にも、夜月くんに対してドキドキしたことは幾度もある。――返す言葉もない。思い当たる節が多すぎた。
「……ほ、穂乃花からしたら、私は……その、夜月くんに……恋をしているように、見える?」
勇気を出して、恐る恐る問いかけてみる。例え話でも『夜月くんが好き』とはどうしても口に出来なくて、遠回しな言い方になった。
「…………」
「……え? ほ、穂乃花?」
今まで絶え間なく喋っていた穂乃花が、急に黙り込んで。しかも、なにか不可解なものを見るような眼差しで見つめてくる。
急な変化に、私は非常に戸惑った。
「……はぁあああ。呆れ返るほどの鈍感なのか、無意識に気付かないようにしてるのか知らないけどさあ。なーんでそんなに認めようとしないのかなぁ。
――そう見えなかったら、そもそも最初の勘違いはしてないと思うんだけど?」
「……あ」
そうだ。今の話題の発端は、穂乃花が私と夜月くんを恋人同士だと勘違いしていたことからだった。
「じゃ、じゃあ……」
穂乃花からは、私達が付き合ってるように見えた。つまり、私が夜月くんのことを――男の子として、好いているように見えると……いうことで……。
「〜〜……っ!!」
「あ、撃沈した」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしたらいいのか分からなくなって。私はティーカップの底と睨めっこしながら悶えた。
考えないようにしても、あの日の夜月くんの笑顔が浮かんで。それだけで、すごくドキドキしてしまう。
(私、夜月くんのこと……好き、なのかな……)
早鐘を打つ胸に手を当てて、心の内で呟く。
と、眠っていた彼に寄りかかられた時の体温と――私を呼ぶ、掠れた声を思い出して。顔が沸騰したのではないかと焦ってしまうほど、熱かった。
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