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陽光(リメイク前)
良いように捉える


 ――翌日。


「おはよう!」

 教室に入った私は、自分を勢いづけるように、いつもよりも大きな声で挨拶をした。

「おはよー」

「おはよ」

 言葉を返してくれるクラスメイトのみんなも、少しだけ驚いているような雰囲気だ。

「おはよ、ひなた。今日はやけにテンション高いねえ」

「うん、まあね」

 自分の席に着くと、前の席にいた穂乃花が私の机へ腕を置き、身を乗り出した。
 グループメンバーは風羽くんを除く全員が来ていて、土盾くんと優次くんは放課後の補習に向けてか早めに来て勉強していたみたい。さっきまで優次くんが付きっきりで教えていて、ちょうど一息吐いたところだと、火宮くんは教えてくれた。


「――火宮くんに聞いたけど。……今まで、みんなには心配かけてたんだよね。私、全然気付かなかった。……ごめん」

 少しの雑談の後。ふいに会話が途切れた時、私は思い切って口を開いた。
 昨日、相談に乗ってくれた火宮くんにだけじゃなく。穂乃花たちにも、ちゃんと言わなきゃいけないと思ったんだ。

 私は立ち上がって、みんなに頭を下げる。と、土盾くんと優次くんが慌てたように声を上げた。

「いやそんな、いいって! 顔上げてよ!」

「そそそうですよ、ひなたさん! ボクなんかに頭を下げる価値は有りませんよぉ!」

「優次、そーいうセリフは今求めてない」

「うぅっ」

 優次くんに冷たく言い放った後、穂乃花は席から立ち、私の顔を覗き込んで。


「ひーなーた、顔上げて」

「……うん」

 私がゆっくりと顔を上げた途端、穂乃花は目を細めて。

「辛気くっさい顔。見てるこっちが陰気になっちゃうよ」

「ちょっ、穂乃花ちゃん! そんな言い方……!」

 土盾くんの抗議を軽くスルーしつつ、穂乃花は続ける。


「あたしの発言に傷ついた?」

「……ううん、それはない」

「だよねえ!」

「穂乃花さん、無理やり言わせてませんか……?」

 私が正直に答えると、穂乃花は華が咲いたような朗らかな笑みを見せた。優次くんの呟きも、土盾くんと同様に聞かなかったことにしたらしい。


「……あのね」

 穂乃花の表情に、ふっと笑みが消える。自然と私の身は緊張したように固くなった。

「ここまで付き合ってきて、もう分かってると思うけど。あたし、ハッキリしないのは嫌いなんだよね」

 それは自分のことでも、他人のことでも同じだと穂乃花は言う。

「もし火宮クン達に止められなかったら、あたしは確実に『ひなたは風羽クンとどうしたいの?』って聞いてたよ。――それぐらい、端から見ててムカムカしてたってコト」

「……うん」

 入学式の日に出会ってから、今まで。この一ヶ月間で、確かに私は穂乃花の性格をある程度は理解していた。
 誰に対しても歯に衣着せぬ物言いをする、気が強い女の子。優次くんの時もそうだったけど、うじうじするのが嫌いなタイプだ。
 そんな彼女が、私と風羽くんのことに異を唱えるのは容易に理解できる。


「ひなたは辛気くさい顔で、気が付けば溜め息吐いたり風羽クンのほう見てるし。対する風羽クンは何考えてんだか分かんない顔で、ひなたの言動をことごとくスルーするし。

――あたしからしたら、『あんた達いい加減にしろー!』って感じだったよ」

 今までの鬱憤をぶつけるように、穂乃花は勢い良くしゃべり。最後の方は、怒りを発散するように叫んだ。


「…………」

 ――……教室中が、しんと静まり返る。
 いきなり何なんだと言いたげな、クラスメイトの視線が私達に刺さった。

「……ほ、穂乃花さん、言いたいことは分かりましたから落ち着いて……」

「そうだね。あんたに言われたらオシマイだね」

「うぅっ!」

 穂乃花と優次くんの会話が、だんだん漫才めいたものになってきた気がする……。

 そうして、私達の話は別に険悪なものではないと判断されたのか。クラスメイト達の視線は次第に離れていった。


「――ま、さっきの様子からして? 少しは吹っ切れたのかなぁと思ったけどね?」

 穂乃花は意味ありげな眼差しで言う。それは、私の答えを求めているように見えた。

「……うん。私、もう少し頑張ってみたいと思ってるんだ。風羽くんのこと、まだ全然分からないことだらけだから」

 私は穂乃花をまっすぐに見据えて、そう答えた。

「……そ。んじゃ、そう言うからには有言実行してよね。またすぐに辛気くさい顔にならないでよ」

「うん、頑張るよ。……叱咤激励ありがと、穂乃花」

「良いように解釈するねえ。ま、構わないけどさ」

 穂乃花の口調は冷たい風だったけれど、口元には笑みが浮かんでいる。それを見た私は、自分の中に闘争心に似た感情が燃え上がるのを感じた。

 ――うん。頑張ろう。

「あー……良かった。喧嘩になっちゃうかと思った」

 私達のやり取りを見守っていた土盾くんが、ふうと胸を撫で下ろす。

「……そんな風だったか?」

「だって穂乃花ちゃん、ホントあれこれハッキリ言うから。ひなたちゃんが怒って、取っ組み合いにでもなったらどうしようかとハラハラしてたんだよ」

 同じく静観していた火宮くんの言葉に、土盾くんは声を上げた。

「女性の争いは怖いと言いますからね……。さ、最悪な事態にはならなくて、良かったと思います!」

 青ざめた優次くんは、そう言って身震いする。……どんな恐ろしい想像図が、彼の頭の中で繰り広げられているんだろう……。

「なーに言ってんのかな、男子は。こんなんただの友情の儀式だって。言いたいこと言い合って、お互いのことをそれまで以上に分かり合う、っていう」

 適当な調子で、あっけらかんと言い放つ穂乃花に、男性陣はそれぞれ三者三様の反応を見せる。

「そ、そうだったのか……! オレ、全然分からなかったよ!」

 全く思いもしなかったとばかりに目を見開く土盾くんと、

「ボクもです! 女性の友情の儀式って、少し怖いんですね……!」

 そんな彼に同調し、さっきよりも青白い顔になる優次くんと。

「言いたい事を言ってたのは、陰糸だけだったように思えたが……いや、何でもない」

 ひとり冷静に呟きながら、最後は穂乃花から目を逸らした火宮くん。穂乃花のことだ、あまり突っ込むと、自分に矛先が向くと思ったのかもしれない……。



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