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陽光(リメイク前)
悩んでいること


 桜が散り、学園での生活にだいぶ慣れてきた頃のこと。

「ううぅっ……やっぱりボクは穂乃花さんの言う通り、どうしようもない馬鹿なんですよ!」

「あーはいはい。そうだねー」

 HRを終えて、教室はクラスメイト達の声で溢れている。
 そんな中、今さっき担任の細川竜治(ほそかわ りゅうじ)先生から小テストの追試を言い渡された人が数人いた。
 ちなみに小テストの内容は、魔法薬の授業でやったこと。この薬をつくるために調合すべき材料は何かとか、その分量を答えよとか、そういう問題だった。

 追試組の中には私達、実習グループ三班の中では二人が入っている。――頭を抱えながら叫んだ優次くんと、彼にいつも通りの調子で笑いかける土盾くんだ。

 このクラスで過ごしてきて一ヶ月以上は経っているからか、優次くんが叫んでもみんな気にしなくなっている。……慣れたんだな、うん……。


「ダーイジョーブだって! 優次はオレより頭いいし、バッチリだよ!」

「そ、そんなことはありませんよ! ボクなんかとても……うぅ……」

 同じ追試組なのにテンションの差がすごい。……土盾くんはポジティブ過ぎ、優次くんはネガティブ過ぎなのかもしれないけど。

「ってか、あんたは緊張しなきゃ出来るでしょ。今回だって、解答欄ズレてたっていう凡ミスだし」

「そうだよ、答え自体は間違ってなかったんだろ? だったら出来るって!」

 穂乃花達の言葉に、優次くんは少し元気が出たみたいで。ちょっと照れくさそうに、頬を赤らめる。

「じゃ、じゃあ……次は頑張って、解答欄を間違えないようにします」

 うん、頑張るのはそこなんだよね、優次くんは。
 実際、優次くんは緊張しなければかなり優秀な成績だと思う。魔法行使の実習も、あれから何とか上手くやれているし(……穂乃花が毎回圧力をかけているのも理由のひとつかもしれない)。

「――なあなあ、それよりオレに勉強教えてくれよ!」

「えぇっ、ボクなんかとんでもないですよ!? ボクなんかより、火宮君や風羽さんの方が成績いいですし、」

「いいじゃん、追試組のよしみって事でさ。それに、優次は十分頭いいって。授業でやった事はすぐ覚えてるし、ノートだってきっちり取ってるじゃん。オレたまに寝ちゃっててさー」

 土盾くんも、優次くんは普通に優等生だと感じているみたい。そのまま、戸惑う優次くんに『追試組で勉強会』という約束を取り付けていた。

 ――友達に勉強を教える、かぁ。もしかしたら、それも優次くんが少しでも自信を持てるきっかけになるかもしれないな。……とはいえ土盾くん。『たまに』じゃなくて『結構』寝てると思うよ……。


「……ふぅ」

 そんなやり取りを、少し遠巻きに眺めていた私は、ふいに溜め息を零していた。
 最近、ふとした拍子に気分が落ちてしまう。誰かと話していたりする時は問題ないんだけど。ひとりになったりして、気持ちが途切れるとこうなるんだ。

 原因は、自分でも分かっている。悩んでいるのは、ふたつのこと。その内のひとつは、


 ――……思い出の男の子へ手紙を出してから、一ヶ月が経過したということ。


 未だに、彼からの返事はなくて。私は木梨先生の元へと、一週間に一回は必ず足を運んでいるけれど、彼に関することは何もなく。手紙はちゃんと受け取ってくれたらしいんだけど、それ以降なんの音沙汰もなかった。

 ――やっぱり、私のことを恨んでいるのかな。……だから、返事をくれないのかな。

 不安な気持ちばかりが、ぐるぐると頭の中に巡ってしまう。胸がきゅっと締め付けられるようで、私は無意識に手を当てていた。


「光咲……どうした?」

「えっ、あ、ううん。な、何でもないよ?」

「そうか……?」

 突然、火宮くんに話しかけられて。考え込んでいた私はびっくりして、素っ頓狂な声を上げてしまった。
 そんな私のごまかしになっていないごまかしに、火宮くんは眉を顰める。

「……お前は最近、土盾達の話題に入らずに一人でいる事が多いな」

「そ……そうかな」

「ああ。……まるで風羽みたいだ」

「……」

 私は思わず黙り込んでしまう。そして、ちらりと風羽くんの席を見た。――そう、席。風羽くんは、この教室にはいなかった。

 風羽くんは放課後になると、誰かに呼び止められない限りすぐさま教室を出て行ってしまう。その素早さは、隣の席にいる私でも、いついなくなったのか気が付かないぐらいで。……彼がいなくなった机を見ると、心の中に暗い雲が流れるようだった。


 ――そう。私は手紙の件と同時に、風羽くんのことで思い悩んでいた。
 前に保健室の近くで話した時、私は風羽くんの言葉に、優しさに元気を貰って。それまでよりも彼のことが知れたように思えて、親しくなれそうだと、そう感じていたのに。

 それからすぐ後。今からちょうど先月あたりから、私は彼に――避けられていた。以前も壁を感じたことはあったけれど、今はそれ以上。

 具体的に言えば、風羽くんの方から私に話しかけてくることが一度もなくなったり。逆に私が話しかけても、反応が(他の人へするよりも)薄かったり。ともすれば、私の声が聞こえなかった振りをされたような時もあった。

 もともと風羽くんは自分から話題を出さない方だし、いつも無表情で反応も薄いタイプだけれど。それでも以前は、話しかければちゃんと言葉を返してくれていたのに。


 ――……どうしてこうなっちゃったんだろう。仲良くなれるかもしれない、そう思った矢先にこんなことになって。手紙の件もあって、私はこの一ヶ月間ずっと途方に暮れていた。



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