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陽光(リメイク前)
初めての実習


「――じゃあ、これから魔法行使の実習を始めるわね」

 魔法とは、心の中でイメージを膨らませて発動させるもの。私達一年が習う魔法行使の授業は、そのなかでも初歩中の初歩だ。

 明坂学園に入学してから数日。今までは魔法の歴史とか種別についての座学だったから、実習は今日が初めて。……うぅ、何にしても『初めて』って緊張するよなぁ……。

 しかし残念ながら、それでも授業は無情にも進んで行くわけで。
 私達は先生の指示に従って、グループ別に集合させられた。


「こんな風に、掌の上で火を起こしてみて。もしそれが出来るなら、その火をこう……練り上げるように、玉の形にしてみせて」

 言いながら、先生はお手本として私達に見せてくれる。――広げた手の上から立ち上り、やがて凝縮して玉状になる火を。

「同じグループのメンバーで出来ない人がいたら、手助けしてあげてね。とはいえ、本人のイメージの問題だからなかなか難しいとは思うけど……――出来ない人がいたら、あとあと響くからね」

 なっ……ということはつまり、自分が出来なかったらグループのみんなに迷惑が掛かるってことなんだ……。

「うぅううう……」

 小さな唸り声が隣から――優次くんだ。優次くん、自己紹介の時からそうだったけど、極度の上がり症みたいだから……私と同じことを考えたのかも。


「――それじゃあ、始め!」

 説明もそこそこに、実習は始まった。
グループメンバー同士で円になって、私達は自分の中で『火』を思い描く。


「――!」

 まだ始まって間もないのに、すぐ傍で火が立ち上った。

「うわぁ、陸すげー! ……よーし、オレも負けてられないな!」

 火宮くんが出した火を見て、土盾くんは闘志を燃やした。

「いや、まあ……どうやら上手くいったみたいだな」

 どうやら火宮くん自身、いきなり成功したことに驚いてるみたい。クラスメイトの女子から上がる黄色い声に、苦笑いを浮かべる。


「――うわわっ! アチッアチチッ!」

 それから数分後。ちらほら成功する人が出始める中、土盾くんが成功――した?

「あらもう。――皆、分かったわね? この場合、あんまり強いイメージをしちゃだめよ。彼みたいに、自分の手まで焼いちゃうからね」

 先生の注意喚起に、生徒たちは困ったように顔を見合わせた。……うーん。何もないところから火を出せ、だけど強くイメージはするな、なんて。難しいな……。

「ううぅ……まさしく熱血!って感じの熱い炎をイメージしちゃダメだったのかあ……」

「おい。それより、手は大丈夫なのか?」

「土盾君、こっち来なさい。保護手袋をしていたから大丈夫だとは思うけれど、一応ね」

「はーい……」

 すごすごと向かう土盾くんの背中を見送って、私は目を閉じてイメージに集中する。……この掌の上に、小さな炎がぼんやりと漂って……。


「――あっ!」

 手に微かな熱を感じて、私は思わず目を上げた。そこには、火宮くん達のような勢いはなかったけど――ほんのビー玉ぐらいの大きさの火が生まれていた。

「あ、ひなたも成功したね」

「穂乃花」

 私と同じタイミングで穂乃花も成功したみたい。穂乃花の創り出した火は私よりも二回りぐらい大きかった。

「後は……あっ、風羽くんも成功したんだね」

「……はい」

 いつも通り無表情の風羽くんの手には、私達よりも遥かに大きな火柱が立っている。……纏う雰囲気もあいまって、風羽くんは何もかも淡々とこなしてしまいそうだなぁ……。

 何となく、まだ風羽くんからは壁を感じるけれど。仲良くしたいって気持ちは変わらずある。
 だから私は、積極的とまでは行かないまでも、ちょくちょく機会を見つけては風羽くんに話しかけていた。


「たっだいまー! あっ、ひなたちゃん達もクリアだね! ……へへっ、でも火の勢いはオレが一番かな!」

「誉められてはなかった気がするが……」

「そんなの気にしない気にしない! 調整すれば大丈夫だって、さっき先生が言ってくれたし!」

 とても前向きな土盾くんの姿は小さな子供みたいで、なんだか微笑ましくなる。私は自然と笑みを零した。


 ――と。


「うわぁああああ!! やっぱりボクは役立たずなんだあああっ!!」

 ――実習室全体に響き渡る悲鳴。その声はとても近くから聞こえた。……さっき、ものすごく不安げだった優次くんだ。

「どうしてボクはっ! いっつもいっつもやらなきゃいけない時に出来ないんだ! 本当にどうしようもないクズだぁあ!!」
 叫びながら、優次くんは頭を抱えて顔を床にガンガンぶつける。

「――って、それは駄目だって!」

 同時に動いた火宮くんや土盾くんと一緒に、慌てて優次くんを止める。

「離して下さいぃいっ! ボクは皆さんの重荷どころか金魚の糞で臑かじりなんですぅう!!」

「お前っ、言ってる事が滅茶苦茶だぞ!」

「大丈夫だよ優次! オレ達皆、気にしてないから! 迷惑だとか思ってないからさ!」

「そんなボクに気を遣わないで下さい! 自分のクズっぷりはよく分かってますからぁあああ……!!」


 ――その後、優次くんのテンション高いネガティブモードは、授業が終了するまで続いた……。

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