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陽光(リメイク前)
一番だいじな気持ち


 教室では簡単なHRをした。担任の先生いわく、授業は数日後――身体測定とかを終わらせてから、本格的に始まるみたい。

 今日はもう特にやることがないので、各自学内を見ていくか寮で休むか、自由にしていいとのことだった。

「よーし! じゃあオレは校舎を見て回ろうかな! 二人とも、一緒に行かない?」

「そうだねえ、行こうかな。ひなたはどうする?」

「あー……ごめん。ちょっと疲れちゃったから、寮で少し休もうかな……」

 朝からずっと走ってたから、さすがに疲れた……。

「そっかあ。んじゃ、またね! ゆっくり休んで!」

「じゃあねー」

 穂乃花と土盾くんを見送った私は、配られた学内地図に視線を落とす。……よし、それじゃあ私も行こうかな。

 人もまばらになった教室を出て、私は校舎を挟んで西側にある女子寮に向かった。



「……って……ここ、どこ……?」

 迷った……。この学園、広すぎ……。
 いや何より、地図を見ていたはずなのにこの失態……情けないったらありゃしない。

「えーと……あ!」

 地図……逆さまに見てた。つまり、私は女子寮ではなく逆方向にある男子寮方面へ歩いていたわけで……。 疲れてるからって言っても、いくらなんでもマヌケすぎる。

 はあ……今までの道を引き返さなくちゃならないなんて、考えただけでドッと疲れが押し寄せる。
 今すぐどこかに座りたいぐらい……――本当に、そうしちゃおうかな……。

 私はきょろきょろと周囲を見回して、少し休めそうな場所を探す。……あっ、あの茂みの辺りなんか良さそう。


「ふー……」

 茂みを囲っているレンガに腰掛けて、私は息を吐いた。傍に立つ低木が日陰をつくってはいるけれど、木々の間からいくつかの陽光が差していて。ちょうどいい気候だな、と私は思った。

「……」

 下を向いて、ふと目に入ったのは自分の足。――正確に言えば右膝を、私は見つめた。


 この学園で果たしたい、私の願い。それは――あの日、私を助けてくれた男の子に会うこと。会って、ちゃんとお礼を言いたいんだ。


 マナを持つ十七歳以上の子供は、みんなこの学園に入学する。それなら、私を魔法で助けてくれたあの男の子だって、ここにいるんじゃないかと思った。
 私より先輩なのか、今日入学した人の中にいるのか、それは分からないけれど。おぼろげに記憶に残っている彼の姿や声は、私と同い年ぐらいだったはずなんだ。

 私がマナに目覚めたのは、彼に会ってからすぐだった。それを私は、これは神様がくれたチャンスなんだと思った。

 人の傷を癒すことのできる、魔法。私は彼に会った当時、それの存在は信じていなかった。今でも使い手は数少ないと言われている、希少な存在。――だからこそ、彼にその力で助けられたことはしっかりと覚えているのかもしれない。

 せめて、少しは顔も覚えてて欲しかったなあ……過去の私。

 あの日は今から七年前のことだし……顔つきも分からないんじゃあ、捜すのはなかなか難しいだろうし。男の子だと声変わりをしてるかもしれないから尚更。


 ――でも。私は、彼に会いたい。

 新生活の不安とか、本当に会えるのか疑問に思ったりもするけれど。何より、それが一番大きくて、大事にしたい素直な気持ち。――だから、頑張るしかない!


「――うん。大丈夫!」

 自分を奮い立たせるように、私は声を出して立ち上がる。
 『大丈夫』、彼が私に言ってくれた言葉が、今の私の口癖になっていた。

「よし!」

 元気が出てきた!
 そのお陰か、なんだかんだで疲れも感じなくなって。寮に戻る気分でもなくなっていた私は、これからどうしようか考えてみる。

 ……うーん。せっかくだし、校内を見て回ろうかな。もし途中で穂乃花たちに会ったら、合流させてもらうのもいいかも。


 そう思って、校舎の方へと足を向けた時だった。


 ――今まで気が付かなかった人の気配を、すぐ後ろに感じた。


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あきゅろす。
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