陽光(リメイク前)
好調な滑り出し
入学式は滞りなく終わり。私達新入生は、体育館の壁に張り出されたクラス分けの表に群がる。
えーっと……うん、見えない。
クラス分けの表の前にはすごい人がいて、しかも正面を男子に阻まれた私は、仕方なしに人々から距離を取る。人がある程度捌けてからにしよう。
「あっ、キミ! キミは何組だった?」
手を振りながらこっちに駆け寄ってきたのは、さっき一緒に走った男の子だった。見るからに快活そうなスポーツマン風オーラを撒き散らす男の子は、「オレはC組だったんだけど」と続ける。
私がまだクラス表を見てないことを伝えたら、男の子は「じゃあ、オレが見てきてあげるよ! さっきぶつかっちゃったお詫び!」と歯を見せて笑った。
「い、いいってそんなの。私だって悪かったんだし……」
「いいからいいから、お詫びさせてよ!
オレは土盾刀我(つちたて とうが)。キミは?」
「こ、光咲ひなた……だけど」
「ふんふん、光咲ひなたちゃんだね! 了解! じゃ、泥船に乗ったつもりで待っててよ!」
勢いに押されて名乗った私に、土盾くんはテンション高く宣言しながら去って行った。――泥船って……。
ていうか、男子に名前をちゃん付けされるなんて小学生の時以来で、なんかヤなんだけど……。
「ねえねえ。今の人は、アナタの彼氏クンなのかな?」
「へっ?!」
いきなり背後から肩に手を置かれて、私は変な声を上げた。
振り向いてみれば、そこにいたのは長い髪を二つ結びにした女の子がいて。私に向かって、悪戯っ子みたいな幼い笑みを浮かべていた。
「な、なに……!?」
「だからあ、今さっき話してた男の子はアナタの彼氏クンなの?って」
「それは違う!」
勘違いされたままはマズいので、私は必死に否定する。すると女の子は、
「ありゃ、やっぱりそうだった?」
「やっぱり、って……」
「だって、あの男の子。土盾クンだっけ? 彼、アナタの名前を聞いてたし。彼氏彼女の関係なら名前を聞くなんてありえないしねー」
だったら何であんな質問……。何だかよく分からない子だ。
「えへへ、ごめんねー。何だかアナタが話しやすそうな雰囲気だったから、ついからかっちゃったー」
「その『つい』はどこにも掛かってないと思うんだけど……」
「そんなの気にしないー。――あたしは陰糸穂乃花(かげいと ほのか)。名字は可愛くないから、穂乃花って呼んでー」
ずいぶんマイペースというか……自分の世界を持ってる子に捕まったみたい……。
でも、こうやって向こうから話しかけてくれるのは、これはこれで嬉しいかも。友達になってもいいかって、思ってくれたってことだもんね。
私も穂乃花に自分の名前を言って(土盾くんが大きな声でしゃべってたから、穂乃花は私の名前を最初から知ってたみたいだけど)、私達は入学早々、晴れて知り合いになれた。
朝寝坊した時はどうなることかと思ったけど……そのお陰で土盾くんや穂乃花と知り合えたし……新生活デビュー、わりかし好調な滑り出しかも。
――寝坊したきっかけになった、昔の夢。あの時の男の子は、もしかしたら今ここにいるのかもしれない。そう思った私は、周囲にちらりと目を向ける。
「どうしたのー? 土盾クンはまだあっちにいるよー」
「あ、ああうん。そうね」
私はごまかすように笑いつつ、顔が全く思い出せない男の子に思いを馳せた。
ここ、明坂学園は――『魔導師』を育成する学園だ。
それぞれ生まれつきだったり、何かしらのきっかけがあったり。そんな『マナ(魔力)』を持った子供を預かり、その才能を伸ばすのを目的として建てられたみたい。歴史はかなり古く、百年以上前からだとか。
この学園を卒業した人間は、自動的に魔導師の資格を得て――魔導研究者など、魔導師しかなれない職業に就くことができる。
マナを持った人間は貴重で、強制的にこの学園へ入らされるのだけれど……私は正直なところ、魔導師への道よりも別の目的――願いがあった。
それは――。
「ひなたちゃん、お待たせ! 遅れてごめんね!」
土盾くんは帰ってくるなり、「キミもオレと同じC組だよ! やったね!」と嬉しそうに伝えてくる。……何というか、勢いが良すぎてちょっと着いていくのが難しいかもしれないな……。
「そっかあ、んじゃああたし達はクラスメイトなんだね」
「え? 穂乃花、もうクラス表見てたの?」
「うん。あれ? まだ見てないなんて一言も言ってなかったでしょ?」
「それはそうだけど……」
なんだかんだで、穂乃花もC組で一緒か……話せる人がクラスにいるのは、少し心強いかも。
その後、土盾くんも穂乃花と自己紹介を済ませて。
私達は、自分達の教室に向けて歩き出した。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!