陽光(リメイク前)
優しいところ
「男らしくない、気持ち悪い趣味って……そんな風に言わなくてもいいんじゃない?」
「う……で、でも……男が、花を見たり育てるのが趣味なんて……気持ち悪くないですか……?」
「ううん」
自信のない優次くんの言葉に、私ははっきりと首を振る。
「私は、そうは思わない。……好きなこととか趣味だとか、そういうのは確かに『男っぽい、女っぽい』って言われがちだけど……。
それが好きって気持ちに、性別は関係ないって。私はそう思う」
何かが好きって気持ちは、誰にも抑えられるものじゃない。だから、それは他の誰にも否定できないんだと思う。
「でっ、でも……!」
「ひなたちゃんの言う通りだよ、優次! ここにいる皆、優次の事を気持ち悪いなんて思ってないって!」
私に同調する土盾くんは笑顔でそう言い切る。その、まさしく『自信』に満ち溢れた土盾くんを、優次くんは戸惑いがちに見つめた。
「それに男らしくない趣味って言えば、陸も甘いもの好きだったりするし! 身近にもいるから気にする事ないって!」
「なっ!? おい土盾っ、いつそれを!」
「だって、食堂行くといつもデザート付きのもの注文するし、特にゼリーなんかは幸せそうに食べてるじゃん。正直確証はなかったんだけど、今の反応で確定だねっ!」
「……なっ……しまった……!」
墓穴を掘ってしまった火宮くんは、本当にショックを受けたみたい。この世の終わりとでも言いそうな表情で、がくりと膝をついてしまった。
……いつもクールな雰囲気の火宮くんが、いつになく落ち込んでいる。よっぽど知られたくなかったんだな……。
「うう、みなさん……ありがとうございます……ボクなんかの為に、こんなに」
「ストップ」
「えっ?」
穂乃花に突然言葉を遮られて、優次くんは間の抜けた声を出す。穂乃花はつまんなそうに目を細めて、優次くんへ告げた。
「だーかーら。いちいち『ボクなんか』とか、そういうネガティブ発言はいらないって言ってんの。
優次ク――ああもう。クンはいらないや。優次はホント、どうしようもない馬鹿だね」
「うぅっ、すみませ」
「うん? 今なに言いかけた? 聞こえなかったナァ、もう一回言ってくれるぅ?」
「ひっ……な、なんでもありません……はい……」
いつの間にか脅してた――?!
「ちょ、ちょっと穂乃花……! いくら発言を改めさせようって言っても、さすがに強く言い過ぎなんじゃ……!」
慌てて穂乃花を呼んで、間近でこっそり話す。
でも、穂乃花は特に悪びれもなく。「だって、ムカつくんだもん」と鼻を鳴らした。
「少しぐらい強引に行かないと、学習しなさそうだなって思ったんだよ。せっかくひなた達が優しいこと言ってあげてたのに、それでもネガティブ発言しようとしたしさ」
「……穂乃花」
私は正直なところ、少し驚いた。穂乃花の言葉はただの悪口ではなく、私達のことを思ってのことだと分かったから。
――それに。 優次くんに対する発言も、裏を返せば彼のネガティブな面を何とかしようと考えた上でのもの……かもしれないし。
普段から穂乃花には、それはどうなのかと思う発言も多々あるけれど……優しいところもあるんだ。
――私がそう、穂乃花に対しての認識を改めたその瞬間。
「んじゃあ、優次ー。これだけの時間をあたし達に使わせたんだし、次の実習で下手打ったら罰ゲームね」
「えぇえええ!? ばっ、罰ゲームだなんていきなりそんなっ!」
「はぁ? 無理だって言うの? あたし達に迷惑かけてるって分かってる癖に、最初から無理だって諦めてるワケ?」
「う……そ、それは……その……」
……うん。正論も言ってるんだけどさ……。
何だかこう、手放しに『そうだね!』とか言えないんだよね……色々な意味で。
私がそんな風に考えている間にも、穂乃花の猛攻は止まらない。
「罰ゲーム、なににしようかなぁー。女装して学園一周とか? あ、もちろん全部の部屋を巡回ね」
「ううぅっ、もう罰ゲームを受ける前提で語られてます……!」
穂乃花の語り口には、する時が来れば本気で実行するだろう響きがあって。さすがに女装は避けたいのか、優次くんは青ざめながらイヤイヤするように首を振る。
――ところが。
「――それが嫌なら本気出せよおバカ」
一喝。穂乃花は、今までになく鋭い、強い眼差しで優次くんを睨みつけた。
「他人の言ってることを、もっと信用しろ。誰も何も言ってないのに、勝手に自分で自分を貶めてるんじゃないよ。……見てて反吐が出るぐらい、すんっごくムカつくから」
優次くんは穂乃花の言葉に目を見開く。
――信用しろ。そこから始まる言の葉たちは、私達が何を言っても最終的には自分を卑下してしまう、そんな優次くんの考え方に対する異議なのだと思う。
優次くんは、私達のことを信用していない。――だから、何を言われてもネガティブ発言に至ってしまう。穂乃花はそう考えたんだ。
「あ……す、すみません……その。ボク、皆さんの事を信用してないとか、そんなつもりじゃなかったんです。
……でも、穂乃花さんにそう言われてもおかしくない事、してたんですね……」
「すみません」、と優次くんは私達に深々と頭を下げた。
「許して欲しかったら、次の実習。罰ゲームにならないように頑張ってみなよ。――本気出したあんたがどれだけ出来るか、あたし達はまだ知らないんだしさ。まずはそれを見せて」
穂乃花の声はまだ荒々しさがあるし、冷たい響きだったけれど。その言葉に顔を上げた優次くんは、
「は、はい……! ――頑張ります!」
確証が持てないからと、口にしなかったセリフを……言い放った。
――それはきっと、穂乃花の激励に応えようとしたんだと思う。優次くんの瞳には、力が宿っていた。
「何だかあの二人、いいコンビじゃない?」
そう耳打ちしてきたのは土盾くんで。子供っぽく笑う彼に、私もそれに同意だと笑みを返した。
穂乃花みたいにあれこれハッキリ言うタイプが傍にいた方が、もしかしたら優次くんにとってはいいのかも。私はどこか晴れ晴れとした気持ちで、そんなことを思っていた。
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