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陽光(リメイク前)
見過ごせない部分


「――本当にすみませんでした……」

 授業を終えて、休み時間。私達は自分の教室に戻ってきていた。

 優次くんは、さっきの実習でかなり参ってしまったみたい。机に置いた腕に顔を預けて、ぐったりとしていた。

「大丈夫だって! 今日がダメだって、次に上手くやればいいんだからさ! そんな落ち込むなよー!」

 あれから優次くんは……結局、一回も成功出来なかった。
 成功出来ないままに授業の終わりを告げる鐘が鳴り、それを聞いた先生はひとこと。


『あら、じゃあ今日はこれで終わりにしましょう。

――言っておくけれど、次は水魔法の実習をしますからね。グループメンバーに一人でも、今回の課題が出来ない人がいる場合。連帯責任という事で、全員に課題が溜まっていくから覚悟してね?』


 ――それを聞いた優次くんの顔は、さっと陰って。まさしく『絶望』したようだった……。


「ご迷惑をお掛けして……ボク、本当に足手まといで……今だって、気を遣わせてしまっています……」

「あーあ。もうこれどうしよーもないかもね?」

「ちょっと、穂乃花……傷口に塩を塗るような言い方しなくても……」

「だってさぁ、さっきから『失敗してすみませんすみません』しか言わないんだもん。失敗したのは皆分かってるんだから、せめて『次は頑張ります』ぐらい言えばいいのにーって」

 穂乃花の口調は冷たいけれど、その言い分は……確かにもっともだと思う。どうしようもないとは言わないけど、優次くんは何かにつけて自分を悪く言う傾向があるから。別にそこまで言わなくても、と思うことも今まで多々あった。


「……すみません。ボク、自信が無くて……確証のないことは言いたくないんです……」

 今までネガティブ発言をする時は、内容に反してむしろテンションが高かった優次くんだけど。……今は、それすら低かった。

「……うーん……じゃあ、優次はどうしたら自分に自信が持てるの?」

「……分かりません。すみません……」

「う……ううーん……」

 優次くんの答えに、土盾くんは頭を抱えて唸る。それを最後に、その場に沈黙が訪れた。


「…………自信の持てるものは、何かありますか。……魔法に関係のない分野でも……構いません」

 次に口を開いたのは、意外にも風羽くんだった。

「うっ」

 問いかけられた優次くんは、風羽くんの視線にびくりと反応する。視線を向けられただけなのにこれは……風羽くんのことがかなり苦手みたいだ。

「あ、の……そのぉー……」

 優次くんは落ち着きなく視線をさまよわせる。何かを迷っているように見えるけど……。

「その反応は……何か心当たりがあるのか?」

「えっ?! ……い、いえ! まさかボクが、そんなもの!」

「何だよー。そんな慌てて否定しなくても、自信のある事があるなら言えばいいじゃん」

「う……」

 しばらく優次くんは黙り込んでいたけれど。私達全員の視線に観念したのか、やがて頬を染めて、恥ずかしそうに呟いた。


「――ボクは……」



 ――その日の放課後、私達は学内の植物園にやってきていた。

 理由は簡単、優次くんが自信の持てることが『花に関すること』だったからだ。


「うわぁ……入学式の日に見たけど、やっぱり凄い大きさだ……」

 土盾くんが、ガラス張りの天井に届くほどの大きな花を仰いで言う。天井は高くて、ずっと見上げていたら首が痛くなってしまうほどだ。

「ここにあるのは全部、魔法の水で創られた花なんです。一番大きなこれは、この明坂学園にしか咲かないそうですよ」

「へえ……」

「名前は明瑠璃花(めいるりばな)。この学園の名が由来です」

 そう語る優次くんの表情は、今までになく生き生きしていて。本当に自信に満ち溢れていたし、何より花が好きなんだって気持ちが伝わってきた。

 可愛いめの容姿とか、普段のおどおどした雰囲気から、優次くんには幼い印象を持っていたけれど。今の優次くんは、どこか大人びていた。

 ――優次くん、こんな顔もするんだな……すごく新鮮だ。


「ふーん。自信があるーって言うだけあって、詳しいねえ?」

「なななっ! そんなことありませんあり得ませんあったら嬉しいですっ!」

「お前、キョドるととりあえず捲し立てる癖あるよな……」

「うっ、す、すみません!」

 顔を真っ赤にした優次くんには、さっきのような大人びた雰囲気はない。……うーん、やっぱり謝り癖は直した方が良いと思う。

 ――とはいえ、単刀直入に『どうしてそんなに謝るの?』とか聞くのも気が引けるな……。
 何より、そう聞いたら『不快にさせてしまってすみません!』って反応が返ってくる気がするし……。

 うーん。
 なにかこう、優次くんのネガティブスイッチをなるべく押さずに、今の状況を少しでも改善できる方法……ないかな。


「あの……ひなたさん」

「えっ? ……あ! ごめんね、少し考えごとしてた。なに?」

「……うううっ、考えてたのはやっぱりボクの事ですよね。ボクがあまりに足手まといな上に、男らしくない気持ち悪い趣味を持っていて『ああこいつどうしよっかなぁー』なんて考えてたんですよねすみませんっ!!」

 …………。

 ああもう、早速ネガティブスイッチを押しちゃったじゃない!


 ――とはいえ、今の優次くんの言葉にはちょっと見過ごせない部分がある。ネガティブモードなのはアレだけど、そこは今ちゃんと言わないと。

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あきゅろす。
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