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SHORT
囚われた少年と妖精(挿絵なしver)

 ある国のある森の奥に大きくて黒いお屋敷がありました。
 そのお屋敷には引きこもりの領主さまと美しい少年が住んでいましたが、本当は領主さまは魔男で、少年はその美しさから連れ去られてきた哀れな子供でした。
 少年はカーテンもドアも閉め切った換気の悪い西部屋に囚われ、一日中領主さまの相手をすることが仕事でした。魔男が寝沈む真夜中だけが少年に許された自由の時間でした。
 真夜中になると、毎晩カーテンを開け、綺麗な月夜を眺め、あたたかいミルクを窓際に置いて、そしてまたカーテンを閉めて眠りにつくのが少年の日課でした。あたたかいミルクを飲みに来る妖精が少年の唯一の友人で、見ることも話すことも叶わなくても、朝になると空のマグカップが妖精の訪問を知らせてくれるだけで少年はしあわせでした。

月夜

 冬が近づいてきたある寒い夜に、妖精のからだが温まるように、と少年はあたたかいミルクにジンジャ―ジャムを混ぜたものを窓際に置き、カーテンを閉めベッドに潜りました。
 そして少年がまどろみ始めた頃に「辛っ!」と叫ぶ声と、ぼちゃん!と水のはじける音が窓から聞こえてきました。「あつあつ!」と喚く声を聞きながら少年がカーテンを開けると、そこにいたのはマグカップの中でミルクに溺れる小さな妖精でした。

マグカップの中

 「ぐばっ! くそっ、さっさと助けやがれ!」とマグカップから出られず、ミルク濡れで泣く妖精がまるで今の少年自身のように見え、哀れに思った少年は妖精をつまみ上げ助けてやりました。
 妖精に体を拭くハンカチと新しいミルクを渡してやると、少年の親切に「ちっ、相変わらずカップ一杯とはしょっぺぇな。もっとねぇのかよ」と妖精は感謝の言葉を言い、今までのホットミルクのお返しに願い事を一つだけ叶えてやろうと少年に持ちかけました。

ねがいごと

 妖精が叶えられる願いは一つだけです。ただし、人の気持ちを変えること、人のいのちを奪うことは不可能で、それ以外ならどんな悪戯でも叶えてみせようと妖精は小さな胸を張ります。

タブー

 そして少年が思いついたのは小さな悪戯。「オレンジ色の入れ物に入った薬を叔父さんの部屋から取って来てくれないかい?」と妖精に頼むことにしました。

小さないたずら

 少年はいつも領主さまが苦しそうに胸を押さえて薬を手にするのを見ているので知っているのです。その薬が領主さまが人間の姿から魔男に変身がとけてしまわないようする、とても大事な薬だと。領主さまが元の醜い姿に戻ればきっと他の人たちも領主さまが人間ではなく、悪い魔男だったと気付いてやっつけに来るはずです。
 少年はその薬はビタミン剤だと妖精に嘘をついて、妖精はその小さな悪戯に快く了承しました。


 そうして、騙され禁忌を犯した妖精は女神様から、「その将来有望な少年の下僕として悪徳を積むように」と罰を言い渡されてしまいました。


 晴れて自由を手に入れた少年は爵位と屋敷を他人に売り渡し、魔男の財産の十部と妖精を連れて旅に出ることにしました。
 そして旅立ちの時、最後に少年が不気味で窮屈だった屋敷を振り返ります。「なんだ今更罪感じてんのかよ。だっせ!」と妖精が励まし、「まさか。欠片もあるわけないさ」と健気立てに少年が優しげな笑顔で返します。
 少年にとっては先の見えない旅でも、そこそこの富と妖精の力を持ってすればもう何も怖くありません。一人と一匹の間には笑い声すら聞こえてきます。
 自由を得た少年と少年に囚われた妖精。いつの日か、国に留まらず世界に名を轟かせるだろう少年と妖精の物語のはじまりです。





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