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その勝負待った!
○○○○○●

無事に午前の授業を受け終えたと同時に月見里は萎びて机に突っ伏した。
この2時間、現代文と世界史の授業でたっぷり静かにしっかり目を閉じて光合成を行っていた月見里。尊敬に値する集中力だが力を使い果たしてしまったのだろう。今はゆっくり休め。

亮も疲れた。
腹が減って疲れた。

環たちに誘われるがまま適当に机をくっつける。月見里も、と思ったが未だ萎れたままなので下手にいじらないほうが良いと見た。
皐月は、まだ席に座ったまま……何やら興奮した様子で、周りに威圧感を与えながらノートを書き殴っている。さっきの授業では板書はなかったのに何してんだ。
気になって灰谷と一緒に皐月のノートを覗き込むと、今日あった出来事が腐良風に脚色されてメモられてた。そういえばこいつ、数学教師に目をつけられて嬉しそうに舌打ちしていたな。灰谷が皐月を指差して亮に何か言いたげにニヤけてくるが、渋く頷くことしか出来なかった。こいつも放っておこう。今は飯第一だ。

チョークすら弾いてしまう強固な重箱弁当に詰め込まれていたのはうずらの卵いっぱいの中華あんかけ弁だった。他の具にも肉やにんにくの芽が入ってて精力増進料理がすごく嬉しい。
がっつりいただいた後は漲るエネルギーを活用すべく、クラスメートを誘ってサッカーに繰り出した。ずっとやってみたかった。胸の上でボール受け止めるやつ。



空は穏やかな快晴。

横には木々というか森が広がり、そこからグラウンドまで清涼で青い空気が運ばれてくる。反対側には芝生の上で観賞役兼マネージャーの皐月とそのサポート役の環が各々別の理由ではしゃいでいる。モジャもフェンスの向こう側に隠れたつもりで体育座りしている。
息を大きく吸うと土のにおいと草木のにおいがした。

「よーし、はじめよう!」

環の鳴らした笛の裏返った音でゲームが始まった。


はじめの内はメンバーとの連携に苦戦したが、段々とアイコンタクトも取れるようになり、結構良いところまで行くようになってきた。

敵チームである花川はプレー中も叫びまくってうざかったがそれも撹乱作戦なのだろう、小さい上にすばしっこくてABCとのうまい連携プレーが手強い。ボールが見事に行き来する。
だが小細工のうまい灰谷のフォローと意外に動けて気配の読みにくい月見里がサイドへのパスを受け取ってくれたおかげでなんとか突破。
ディフェンスらしい三國は無表情さから行動を読みにくいかと思ったが、視線でばればれ、灰谷の器用な足技でボールが三國の横をすり抜け亮が受け取る。
キーパーである真部は構えがまず武道そのものだ。若干びびらされたが、これも陽動か。真部の目は一瞬、しかし的確に亮の足を捉え、亮の動きを予測して右に身体を傾けた。

――フェイントだ。

左足で蹴ると見せかけ右足で、次いでドライブをかけることも忘れない。

ボールは左に大きくカーブする。


「ナイスシュート!」


真部、敵チームが素直に感心するところじゃないだろ。


プレー中に胸キャッチやスライディングも決めて、亮自身の身体能力に調子に乗ってバク宙しながらキックを試みたが、当たり前のように失敗した。その場はウケたから良いとして、密かに特訓を始めることを誓った。
次なる目標は彼の有名なキャプテンの成すオーバーヘッドキックだ。

いつの間にか敵や味方にメンバーが増えていて明らかクラスメートじゃないやつがいたり、さりげなく尻を撫でられながら手を叩き落としながら、最終的にホストまで出しゃばって上着を脱いだところで予鈴が鳴り響いた。
勢いよく上着を脱いで着る動作に昔のアイドルのギャグを重ね合わせてしまった。わざとじゃないことは分かっているから安心しろ、ホスト。

水道で顔と頭を適当に洗って、教室まで帰る間に投げつけられたタオルで拭いながら、手渡された水を飲んで、伸ばされた手にハイタッチしてゆく。
どいつもよく知らない顔ばかりだが、スポーツは人と交流を深めるのに丁度良い。中々の好敵手も発見したし今度の体育が楽しみだ。



次の生物の教師は中々にぶっ飛んだ人なようで、一言目が亮の脇汗を採取させて欲しいとの頼み事だった。暑さからシャツをはためかしていた亮だが、それを聞いてあっという間に熱が引いた。もちろんその頼み事は即刻拒否させてもらった。
なんでも、フェロモンについて今研究中らしく、性的興奮を呼び起こす性ホルモン(フェロモンとも呼ぶらしい)が体液に含まれ、特に脇や乳首、下のところに多く含まれているらしい。こら、乳首触ろうとするな。下はもっとダメに決まっている。
攻防の末理由を尋ねれば、亮は男性ホルモンが多い容姿をしているらしく、サンプルとしては最高なんだとか。最終的には被験者に是非なって欲しいと飛び跳ねた頭を下げられた。が、色々哀しかったので丁重且つ率直にお断りさせてもらった。

人間の本質を研究するのは大いに興味をそそられるものがあるのは分かるが、人間が人間であるための常識は置き忘れちゃならんだろうに。


亮が一息つきながら額の汗を拭ったところで、またしても勢いよく教室のドアが開けられた。

「Good afternoon, my sweet honeys!」

華麗なるタップとターンとポーズで決めて入ってきた外国人。しかもさりげなくインパクトあふれるバラの花びらを撒き散らす。

「How are you feeling today?」

両手を広げ、さらに花吹雪を散らす。

なんだその演出は。

大仰な登場の仕方にブロードウェイ気取りかヅカ被れを疑うが、日本にいるからにはまずは花咲爺の奥ゆかしさを学べ。

「How are you doing, my sweeties?」

流石に順応性の高いクラスメート達もこの奇抜な外国人に面喰っていたようだが、二度繰り返された、日本語で言う「元気ですかー!?」に遅ばせながら戸惑いながらも各々が反応を返す。
よくある「I'm fine. Thank you.」だ。
奴はその答えにつまらなさそうに肩を竦めて、一本の人差し指を振り振りウィンクを飛ばしながらバラエティに富んだアドバイスをくれる。

HAHAHAと白い歯を見せて笑う、芝居臭さが鼻について仕方ないブロンド、グリーンアイのいかにもな典型的外国人教師はOCI(Oral Communication I)の担当教員。コミュニケーションのクラスには持って来いの滑舌と饒舌と表現力だ。
その凄まじいハイテンションに絡みにくさを感じるが、期待を裏切らないイメージ通りの異国の貴公子面と人懐っこい笑みと親しげなスキンシップが教師と生徒の距離を感じさせない。


いや

距離が無い。



いや?
あれは、あのハグは友好のしるしか?

腰撫ではアリか? マッサージか? それがか?


いやいや、


待て待て待て

それは完全なるセクハラだ!
尻の形を確かめるな。掴むな。両手とかモロ過ぎるだろ!
そこのクラスメート、不思議そうな顔してないで嫌がるんだ! 騙されるな!

こらこらこらこら!


日本人はパーソナルスペースがうんたらかんたら文句を垂れ、今度は日本語ワカリマセンと来た。セクハラ被害者である生徒に対しては紳士っぽく弁明というか詭弁とも言える言い訳を並べる。生徒もそれで頬を染めるのだからどうしようもない。
一応首席で賢さ学年ナンバーワンこと皐月が複雑な顔をしながらも日本文化について外国人教師に教えるが、文化の違いによるミスアンダースタンディングだと、誤解だと言われれば責める気も削がれるというものだ。いや、そこは強気で行け、と言いたいが、ともかくここは話し合おうじゃないか、と向こうから急に冷静な提案をされれば頷かないわけにはいかない。こちらに正当性(勝ち目)があるのは確かだ。
よって、テーマ『異文化理解――パーソナルスペースとスキンシップはどこまでがセーフでアウトか』で意見を交し合うこととなった。怪しい動きをする教師を幾度か押さえ込みながらも、問題をすりかえられた気がしながらも、OCIらしく、うまい具合にクラスメートと英語での議論を交わしたのだった。

授業後、何度思い直してみても、やはりあれは明らかなるセクハラで、目に余る程の堂々たるセクハラだった。今後奴には目を光らせる必要がある。

しかし哀しいかな、亮も思い当たる節があり過ぎる。少しくらいは我が振りを改め直してやろう。






→あいつ誰だったか名簿を見る



[*PRE]

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