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その勝負待った!
○○○○●


「Good morning, everyone.」

簡単な一言ではあったが、流暢な英語だった。とてもホストの口から躍り出てきたとは思えない。

「いいか、お前ら、外部生の水守と佐倉井がいるから改めて伝えておくが、俺様の英語の授業ではリーディング、リスニング、ライティングを教えてやる。
 文法は中等部の頃に学んだものを踏まえてより細かく学んでいく。だから中等部の頃の英語に自信のねぇ奴は俺んトコにでも添削問題を取りに来い。
 とりあえず、はじめの内はリーディングで速読力と読解力を鍛え、文章構成に慣れていってもらう。速読だけでなく、要約や言い換えも入ってくるから語録が必要だ。毎日新しい単語を覚えていけ。
 ライティングもあるが、中等部の頃のようなひたすら書きなぐるジャーナルではなく、文章構成を理解することから始め、段落から作文、最終的には小論文を書けるように指導していく。来年にはちゃんとした論文も書くようになるからな、基礎となる今年から手を抜くなよ」

と、一通り大まかに今年の英語の授業プランを説明し終えてホストはボトルの水を口に含む。
亮の手元にも英語の学習概要の書かれたプリントがあるが、この一年をプラン立てただけあって数枚に亘る。試験までの勉強内容と試験日が事細かに記載され、勉強がしやすく、とても便利で手の込んだものだと気付くが、

濃い。

プリントを捲っていくと、スケジュールだけでなく、授業の受け方のヒントや便利なwebサイト、本までが紹介されている。

濃ゆい。

レベルが高いと言うか、これが高校生の勉強する英語だっただろうか。
進学校とはこんなところなのか、BL学園がこんなんなのか。比べる対象がないから亮も判断がつかない。
英語が得意である亮でも少し厳しいかもしれない。何せ亮の英語力は興味のあるアクション映画や、海外の武術に関するレクチャーDVD、武術や剣術の作法や歴史に残る戦法に関する洋書で得た、趣味の為の知識の副産物に過ぎない。
まるっきり学問らしい高度な英語など亮はついていけるのだろうか。いや、厳しいな。

「なんだ、文句でもあるのか水守」

思わず漏れたため息を目ざとく見つけたホスト、いや、ティーチャー雛木佐鳥。

「いえ、こんなに丁寧に組まれたスケジュールを見て感動しただけです」

「そうだろう」

得意げな言動はあほくさいのに、教師としては随分と指導熱心で雛木佐鳥を見直す。素直に尊敬できる。

「基本授業は英語を使って進めていく。お前らも英語を使うことに慣れてもらうからな」

つい、またため息を漏らしたくなってしまったが寸でのところで堪え、鼻息ついでに外でも眺めておく。春の空は穏やかだ。
一方、日光を浴びてもまるで穏やかそうでないのが、隣の月見里だ。
固まっている。目見開いて怖いぞ、お前。目が乾いたのか、両手で顔を覆う。

「はぁ……」

悩ましげにため息を吐いたかと思えばごしごしと顔を擦り、今度は頭を抱えだした。分かりやすいほどにショックを受けているようだ。おもしろい奴だな。

「Listen,――

と言って雛木佐鳥は滑らかに英語を紡いでいく。奴の手の中にあるのは教科書で、亮も慌てて教科書のページを捲った。



――話を聞くに、今回のテーマはジェンダーであるらしい。初っ端から随分と大きなテーマだが、男同士のらぶすとーりーが日常茶飯事なここでは理解すべきテーマになるのだろうか。
このセクションの概要と主旨を噛み砕いていけば、ジェンダーに関して物申したい人が書いた話を読んだ上で、今度は自分なりの考えを書いてみよう、ってことらしい。
というか、全部英語だ。日本語が見つからない。ページ数まで英語にするとはくどいな。

「じゃ、始めっか。まずは一つ目のリーディングから……これは短いから読んでもらうか。誰がいいか――月見里。おい、人生終わった顔してるが、今始めるとこだかんな。この題名にある、warriorはどういう意味か分かるか?」

また、マイナーな単語を選んだものだ。日常生活で早々使うことはない。

「――……」

月見里も聞き覚えがないのだろう、教科書を凝視したまま黙り込む。
だが亮は趣味の中ではよく見聞きする言葉だ。いつかは呼ばれてみたい。

「――武人、軍人、もしくは戦士」

月見里が無言で視線を送ってきた。

「warriorの意味」

亮も目を逸らさずに囁き、安心させるように少し微笑んでみる。が、残念ながら呆れたように一瞬だけ眉を顰められ、視線を外されてしまった。

「うぉりあーの意味……は、軍人」

「正解。まぁ、これは普段聞かない言葉だから分かんなかった奴も多いと思うが、分かんなかったら積極的に聞けよ。この場合英語に限るがな。辞書は授業の後に引け。授業中はとにかく付いて来いよ。分かんなかったら質問。それでも分かんなかったら授業後に俺んとこ来い」

隣の月見里はホスト以上に英語に苦手意識を感じているのか、いつになく険しい顔で教科書を憎憎しげに睨み下ろしている。

「じゃあ、水守、お前この内容が分かるみてぇだから死相の出てる月見里に代わってこの話を読み上げろ」

気付いてたのか、亮が助言をしたことを。

真面目な教師っぽく手を縦に振って亮に起立を促す雛木佐鳥は、先ほどまで浮かれてたホストっぷりを微塵も感じさせない。

仕方なく立ち上がって、教科書の中の文字を目で追いながら口を開いた。


「A Woman Warrior――」





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