その勝負待った!
○○○●
亮達が教室に戻ると同時にガーリー男子達が群がって来て、一瞬にして卯月を包囲し教室内を集団移動していった。卯月が「ひーっ!」と叫んでいたが、亮は亮でどさくさに亮Jrをぺろりと撫でられたショックで動けなかった。
乙女顔と侮っていたが、奴らも確かにオスだったようだ。中々やりよる。
「亮? 授業始まるよ?」
環だ。
いつの間に。
「ああ、うん」
ショック状態から引き戻してくれた環は亮を見上げて不思議そうに頭を傾けた。
亮をじっと見つめてくる猫目は先ほどよりも静かで、亮の表情から何かを探っているようにも問い詰めているようにも見え、先ほどまで良からぬことを考えていた、いや、実際やましい事をしていた亮を落ち着かなくさせる。
いや、しかしこの環だ。皐月でもあるまい。
「どした?」
気まずさから誤魔化すように環の頭に手を乗せると、ようやく視線を外してくれた。
「うん」
何気なく亮の手を掴み、にぎにぎ揉みしだいてくる、俯いてしまった環。皐月であれば骨が軋むほど握りつぶしてきそうだが、環は平和に拙いマッサージを施してくれる。
環の出方につい身構えてしまうのは、環の背後からガンを飛ばして来ているであろう腐良の存在を感じるためか。何がそうさせたんだ。
「今日のね、最後の授業はLHRで委員決めなんだ。亮は何やるか決めた?」
亮の手をにぎり遊びながらも時折視線を上げて来る環。同時に周囲から複数の視線も感じ、尚のこと環の話に耳を傾けねばいけないような気がしてきた。
委員決めか。
「やらなきゃいけないものなのか?」
こんな摩訶不思議な学校の委員など亮なんぞが務められそうにない。面倒くさい違いない。
「んー、前期か後期のどっちかにはやんないとだよ」
くそ、面倒なルールだ。これは中学でも恒例の泥沼戦、もとい委員のなすり付け合いが始まりそうだ。
「環はなんか決めたのか?」
少しでも楽そうな、いや、楽しそうな委員会はないかと思って、亮の手を飽きもせず見つめている環に聞いてみる。
「う、ん? んーん、まだだよー。あ、佐鳥ちゃん来ちゃったぽいね」
目を合わせたのに、視線を横に向けた環に一瞬はぐらかされたような感じがしないでもなかったけれど、激しいドアの開閉音と沸き立つ喜声に環から気が削がれてしまった。
黄色い出迎え声に明らかに満足そうなホスト、月見里が奴を見て今度はどんな表情をしているのか観察したい知的好奇心に駆られる。
「あぁ? 水守に環、お前ら俺の目の前でいちゃついてんじゃねぇーよ。散れ散れ」
またこのトリ頭は不純な妄想を「へへっいいでしょー」
急にぴとっと亮の胸にくっついた柔らかな金髪、ではなく、環の頭。環が顔を上げ、目が合うとはにかむ様に微笑まれた。
うん
いける。
気がしたのだけど、手を出す前に先に腕を引っ張られ、また少し期待したのだけど、残念ながら環に連れられて座らされたのは亮の席で、静粛に厳かに授業が始められてしまった。
なんだ、これ。
もう一度環を見ると、環もまた少しだけこちらに視線を寄こして、伏せて、小さく口だけで笑った。
なんだ、かわいいな。
正当化できるかわいらしさを目の当たりにして満足したので、出しゃばってグーサインを見せ付ける皐月と口を挟みたげにニヤつく灰谷を見て、目の前の強烈な視線と視界の端でうごめく奴を無視して、おとなしく手元の教科書を開くことにした。
今は英語の授業らしい。
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