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その勝負待った!
○●

「おし、お前らーHR始めるぞー。席着いてねぇ奴は一秒以内に俺様に跪けー」

教師らしい一声と共に教室に入って来たホスト。今日もしっかり夜勤帰りらしい姿でやって来た。

「今日も俺様に感謝して生活しろよ」

そして胡散臭く髪をかき上げて格好つけるホストは、やっぱりわざとらしい。

「「「キャー佐鳥様ー!!!」」」

ヨイショされて嬉しそうな、ホスト。褒めて伸びるタイプなのかもしれない。
隣りの月見里なんかは「はっ」と鼻で笑っている。侮蔑混じりの冷めた目で見られてる、そんな視線に気付かないホストが居たたまれず、目を逸らしてしまう。
月見里とは正反対に熱い歓喜の奇声を上げる女みたいな奴らはホストを調子付かせる親衛隊と思われる。だが、あれが昨日灰谷や環が言っていたように、ホストを煽てる他にもガードマンさながらの肉体労働までこなすのだろうか。あの華奢な身体で。

もう一度ホストに目を向けると、ホストは作ったような切れのある表情をこちらに向けた。そして勢い良く腕を振り上げ、

「んでもって溶け込み過ぎなんだよ、お前は!」


――投げた


と思った瞬間、前の席の奴が頭を傾け、見えた“それ”に焦って手にある弁当箱で顔面をガード。白い何か――チョークは予想通り亮の弁当箱に直撃、軌道を曲げて横に飛び去った。

「あうちっ!」

 ガチンッ

声と派手な物音が聞こえた横、というか右斜め後ろでは花川が無様に体で大の字を描いていた。花川の頭と後ろの壁には白い飛沫痕が彩り、チョークの威力を物語る。

「水守、てめっ、俺の投げたチョークの軌道変えやがったな!?」

確かに、光の反射のような現象を起こしてしまった……うそん。

「そーみたいですね」

大変だ、ファンタジーを素でやってしまった!

「きも!」

本気顔で月見里に引かれた、しょっくだ。

「うわ、なくね!?」

これまた本気顔で灰谷に喜ばれた。かなり腹立つ顔だ。
そして真顔で亮を凝視してくる前の席、顔が近い! 視線が痛い!

てかお前、三國(みくに)か! 周りに馴染み過ぎだろ!


パチパチパチ


不意に立派な拍手の音が聞こえて顔を上げれば、

「見事だ」

スタンディングオベーションを送って来る、それはまた綺羅綺羅しいオーラを放った天使顔。

いや、
いやいや、見事はお前だ。

天使降臨を錯思わせる端正な顔と優美に賛美する御手。黄金色の頭には推測を裏付けるかのように天使の輪が輝き、青空を映したような青い瞳は慈悲深そうだ。
三國先輩の言葉を思い出す、正しく綺麗過ぎて逆に怖い顔の――真部(まなべ)。

思わず亮は成る程、と頷いてしまった。

「うぉい、何呑気にはしゃいでんだ、コラ! その前に言うことあるだろう、三國に真部! お前ら何で昨日無断欠席しやがった!?」

「あー、昨日起きたらもう12時だったんで、もういいかなって思って」

実直さを表すような真っ黒な目はこちらを見つめたまま、潔く素直な回答をする、三國。それを亮の方向いて言うな。

「てめーはどっち向いて言ってんだコラ!」

そうだそうだ、と賛同するつもりが、ホストのチョーク第二波が来た所為で頭を横に傾けることとなった。三國はきもいことに亮の鏡のように動き、見事チョークを見ずに避けた。

「お見事」

「てめぇは座ってろ、真部」

またもや感動してくれた真部はパフォーマンス好きなのか、純粋なる感動しいなのか、その素直で無邪気な言動と規格外な見た目とが相俟って若干存在が怪しい。

「大体なぁ、おめぇらの勝手な言動の所為で俺がクソ教頭だとかうぜぇ主任だとかもにょもにょだとかから後から言われんだよっ! ちったぁ下っ端の俺のことも考えやがれ!」

うむ、言いたいことも言い切れない程の切なさはないな。
ホストを応援したくなる気持ちがよく分かった。

「すんませーん」
「ごめんなさーい」
「ごめんね、さとりちゃーん」

口々に適当な謝罪を言われ神妙に頷くホスト。軽いな。

漸く教師としての報告を済ませた後、乙女男子たちに囲まれ励ましのヨイショをされ直されてから教室を出て行った。

心のケアまでサポートする親衛隊の仕事の幅広さには恐れ入る。



「すげーな、このクラスの顔偏差値上がったくね?」

と、ホストが教室を出た直後に声を上げたのは、しつこい程に見飽きた顔のこいつ、三國だ。

「だろだろー? 真部で目の肥えたお前でもびっくりだろー、すげーだろー」

「いや、花川には聞いてねぇんだよな」

「花川うぜー、失せろ」

「うっわ、三國それ言う!? 灰谷までダブルでひでーよ!」

相変わらず右はウザくて回復力が基地外染みてて、目の前の三國は会話を続けながらも戸惑いなく真っすぐ真剣な表情で亮を見つめて来る。

「なぁ、何食ったら、そんなイケメンになれんの? イケメンさんよー」

いや……、こいつのは真剣な顔しているわけでなく――

「んー、たんぱく質かな」

「まじで!?」


――無表情だ。

驚いた声に伴わない、表情の無い顔。


「うん」


三國は顔の動きに力が無い。

口だけが音を出す為に動くが、その顔から感情を読むことはできない。


「って、水守! 何さらっとホラ吹き流してんだよ!?」

失礼な。

「ホラって決め付けんな」

「えぇっ!? だって水守、たんぱく質とりゃあイケメンになれんなら俺だってなりてーよっ! めっちゃ肉食ってやるよ!」

「はぁ? 本物のイケメンの言うこと疑うのかよ、うぜー」

「そーだそーだ、長いモノにまかれてろ」

だが不気味ささえある無表情な三國の口から出てくる言葉はただのアホでしかない。

「いや、灰谷顔が笑ってるから! 三國は無表情過ぎて本気で信じてんのか分かんねーよ! てか、バカのくせに難しい言葉使おうとしてんじゃねーよ! なんかそれ使う状況じゃねーだろ、オレもどうちげぇのか分かんねーけど!」

すげぇ、ふざけてばかりの花川がツッコミしてる。

亮から視線を外すことなく、花川にツッコミをさせる三國に感動してしまう。三國兄弟は何か特殊なDNAを持っているに違いない。

無表情さが尚のことそんな疑惑を持たせる、三國。お前、何奴。

なんて面倒くさい邪推と、ガタガタと亮の机を揺らす煩い前と右の対処に諦めて左を向けば、先ほどと変わらない冷めた目でこちらを見てた月見里と目が合って何故か癒された。


月見里が何かの植物だったら絶対亮は枯らさずに育てられそうだ。




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