[携帯モード] [URL送信]

その勝負待った!
●17本目

今日も今日とて一人寂しく目覚め、モジャに見守られながら朝練に励み、携帯が歌いだしたサザエの歌で今日の朝ごはんを騙されて、肉と卵とパンのイングリッシュ式朝ごはんを食した。頭のセットは縁に任せてネクタイは皐月に任せて変態は亮に任せられて、昨日と同じく多数の視線でできたアーチを潜り、亮の下駄箱を開けた。紙が流れてきた。

「なんだこれは」

紙ナイフのつもりか。今仕掛けたのか、亮に。

「ラブレターだろが」

「わっホントだ。漫画みたいだね」

亮が一握り分紙を掴むと確かにどれもハートやらピンクやらでロマンチックを装った手紙だった。残念ながらパッと見たところ果たし状は含まれていない。

というか、

「くさい」

「え、バラの香りいいにおいじゃん。香水つきなんておっしゃれぇ」

靴ににおいがつくだろが。やだなぁ。
亮はあまり人工の香りは好きじゃない。まったく美味そうじゃない。自然の香りが一番だ。

「あー、くさい」

つかんだ手紙はそのまま下駄箱の上にでも置いておく。他の奴も鼻の痛みを味わえばいい。
朝からいらっともやっとさせやがる。

「えぇ〜、らぶれたぁ読まないの〜?」

靴のにおいを確認すると亮の足のにおいと少しだけ香水のにおいが付いていた。
どうせなら消臭スプレーを使ってくれれば良かったのに。

「読んでどうするんだ」

「そりゃあ亮のもてもてぶりを確認しなきゃじゃん。で、どんな子が堕ちちゃったのかなぁ、って気になるじゃん。ね、皐月?」

他人事だからと縁は随分と愉しそうだ。むかつくことこの上ない。

「あれ、皐月?」

縁の声に反応の無い皐月を見れば皐月も紙を掴んでいた。桃色便箋がラブレターぽいが、それを読む皐月の顔は青い。何が起きた。
皐月から手紙を奪い、亮も皐月宛てラブレターを読ませてもらう。


――僕のSWEET ANGEL、皐月くんへ★

一目見たときから君にFALLIN' LOVE★
抑えられない、淫らにBEATするこのHEART★
だってこんなに君を組み敷きたいRIGHT NOW★――


グシャッ


よし、わかった。
最初の数行で内容を把握したので手紙をコンパクトに握りつぶしてしまった。
封筒に書かれた送り主の名前と学年、クラスを確認してこれも握りつぶしとく。

「え、亮?」

HRが始まるまでまだ10分は時間があったはずだ。
ショック状態の皐月は縁に支えられて教室に送り届けてもらえるだろう。

「ランニング行って来る」

「え、今から? って、そっち上級生の階だよ!?」

「素振りも兼ねてくるから大丈夫だ」

「えへぇえ!? 大丈夫ってどこが!?」

すぐに使えるように肩を回して慣らしておく。
朝練をしたからか、体の準備はすぐに整いそうだ。

「きもいきもいきもいきもいきもい」

「えっ! 皐月がこわれた!? あ、あきらぁっ!」

「すぐ戻って来る」

ちょっと待ってろ。
ぎこちなく皐月を支える縁を背に、亮が生徒を掻き分けて階段を二段飛ばしで駆け上がる。

目指すは変態のクラスへ。




予鈴が鳴るより早く教室に入ると、心配げな顔つきをした環とニヤ顔な灰谷に出迎えられた。昨日とは打って変わって社交的なクラスメートのあいさつにも頷き、あいさつを返しておく。

「はよ」

「亮おはよー」
「おー水守、遅かったなぁ」

灰谷に言われて時計を見てみればHR開始3分前。ぎりぎりだったな。
皐月は……、ちゃんと教室に戻ってこれたようだ。皐月の睨むような目と目が合ったので、敵は討ったぞと微笑んでやる。

「わっ! 亮ほっぺに血付いてるよ!?」

「ああ……返り血だから大丈夫だ」

「ええぇえっ!? 何があったの!?」
「へぇ、意外だな」

いつのまに付いたのか。亮にも覚えていないがこれは亮のじゃないことは確かだ。
亮が頬を擦っていると、少し血色の悪い皐月が無言でハンカチを亮に渡してきた。平常心を取り戻したようで何よりだ。

「違う。反対側だ」

皐月からハンカチを奪われて反対側の頬を擦られる。
皐月はむすっとした顔で何かが気に入らないようだ。その突き出た唇が摘まみたくなる。なしたよ。

「お前、こんなことして部活大丈夫なのかよ……」

部活? なんでそこに行きつくんだ。

「ボタンも失くしてきやがって……」

そう言えば無いな。

「あ、亮……け、喧嘩? してきたの?」

環が亮の手を掴み拳を確認するように眺めまわす。
喧嘩? 亮がか。

「大丈夫だ。優しく諭してきたからな」

喧嘩は……無いな。闘争心は剣道で発揮している分で十分だ。

「はっ?」

「先輩呼び出して、ゆっくりな。この血は変態の鼻血だから平気だ。向こうに大した外傷は無い」

緩んだネクタイを締め直すが、第二ボタンまで飛んで行ってしまっている為どうも格好がつかない。

「皐月、安ピンないか?」

手を出し、皐月に顔を向ければ、


「てっめ……」


般若顔。


首を回せば亮と目が合う口角を上げた灰谷、固まった環、視界の端で飛び跳ねる花川がいた。

「水守もやるなァ」

灰谷に認められても嬉しくない。

というか、皐月、グーは痛い。んでもって左頬はもうやめろ。





[*PRE][NEXT#]

18/23ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!