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その勝負待った!
○●


亮がのんびり環を可愛がりながら歩いて来て教室のドアを開けると、何やら白いものがかざされていた。

「おっせぇよ」
「うひゃっ」

咄嗟に首を傾けて避けると、バコッと亮の肩から良い音が鳴った。

目の前にいるのはホスト雛木佐鳥。

肩の軽い衝撃にホストの手元を見ると、丸められた学園の冊子が握られて頼りなくくたびれている。
全く、これの所為で環がびっくりしただろが。だが急所を外したな。剣道で言うならば今のじゃ一本にならない。

「……オイ、なに避けてんだ。殴られろや」

「うはぁー、佐鳥ちゃんPTAに怒られちゃうよ…」

「うっせ!」

そんな見切られる攻撃で逃げるなと言われても無理がある。

「あー、つい。……俺が直々に良い打ち方を教えましょーか?」

そうだ。ホストごときの攻撃を甘んじて受けるのは癪だから、逆にホストを鍛えれば良い。教える方も学べるし、日頃から反射神経を鍛える運動にもなるしな、うん。
冊子を持つ方の腕を握ると思ったよりも細かったホストの腕。

「うぜぇ触んなっ、てめぇとSMする気はねぇよ!」

手首を痛めそうなほどに勢いよく腕を振られて亮の手が振り解かれる。
そうか、SMごっこか。なかなかホストも妄想度高いな。
でも……叩かれて痛がるホストを眺めるのは気分いいかもしれない。
うん。いい。

「しねぇつってんだろが」

ペシャッ!

いてっ。手叩かれた。
口が緩んでたのを見られたか。

だが今の籠手(こて)打ちもまた

「だめだな、センセ。籠手ってのは「もういいからてめぇらは席戻れ!」はーい」



席に戻る途中、灰谷がニヤ笑いかけてくるのも、花川がハイタッチのポーズで待ち構えているのも素通りして亮の席に着くと、机の上には数枚のプリントが置いてあった。

プリントを手に取って確認すれば、中には『入部届』と書かれたものがある。
勿論、亮は今日中に剣道部に殴りこみ、いや、見学しに行くつもりだ。

「はぁ……お前ら全員プリントは貰ったな。じゃ、今日はこれで終わりだ」

BLモノではあるが、ここは一冊の小説の中だ。
きっと亮の知らない、フィクションめいた強豪たちが溢れていることだろう。

「ぁ…と言い忘れていたが、明日は委員会を決めるから興味ある奴は考えとけよ。ついでに言うと、風紀は推薦、生徒会は選挙だから今んとこお前らには関係ない。部活や他の活動は今日からだから見学したい奴は勝手に行っとけ。スポーツ特待生の水守と三國(みくに)…は今日はいねぇんだったな、水守、てめぇは今日中に部活に顔出してけよ」

「りょーかいです」

それは勿論だ。だが、三國って奴もスポーツ特待生なのか。
そいつは出席番号順では亮の目の前の席の奴になる。亮の前の二つの席は空いたままだ。

「以上だ。分かったら俺の言ったことをよく噛み締めて感謝して解散だ」

「「はーい!」」

ホストの客らしいクラスメート達の甲高い返事を背にホストが教室を出て行った。



「しゃー! 終わった―! 水守、一緒nぶっ!!」

ガターンッ!

「あうーーーち!」
「「は、花川氏!!」」

「よし、花川黙ってろ」

灰谷によって椅子ごと後方に倒された花川。
さながら若手芸人のような体の張りようだ。

「うはっ! 花川のM字開脚エロくなっ!
 へい、さつききゅーん、一緒にご飯食おー!」

先ほどのしおらしさが嘘のように皐月に飛びつく環はなんか腹立つな。

「きめぇ呼び方すんな!」

「そーそ、水守、一緒に飯食いに行かねぇ?」

「あー! オレもオレも、ぐっ!!」

灰谷に肩をわし掴まれ、花川が視界から消えた代わりに灰谷の企み顔を見せつけられる。何をさせるつもりだ。

「俺たちの友情深めよぉぜぇ?」

深める以前に、そんなものどこにあったって言うんだ。さっき散々裏切っていただろ。
だが、確かに腹は減っている。すぐにでも剣道部に覗きに行きたいが、腹が減っては戦は出来ない。

「行くから離れろ」

馴れ馴れしく亮の肩にのしかかる灰谷の手をどかし、亮と灰谷を待つ皐月と環の元へ行く。
目が合った環は自身の体を抱きしめ、「はうっ!」と嬉しげな声を漏らした。何をして欲しいのかは分からないが、今は亮が何かをしてやるつもりは無い。



「み、水守様!! さふ、佐倉井様!!」

そんな簡単に噛むような名字だろうか。

「お、来たな?」

そうか、楽しそうな灰谷の声からして良いことではないな。

「んだよ」
「様ってなんだ?」

噛み噛みで亮と皐月を呼んだのは、ホストの顧客、いや、きゃいきゃい騒いでいた小柄な奴らが五人。こうして目の前で見るとほんとに小さい。マスコットにできそうだ。

「あ、あの、水守様への敬愛の念を込めてお呼びしたのですが…お嫌いでしたか?」

なんだってそんなに謙ってるんだ。面倒くさいな。

「あぁ、好きじゃないな。普通に呼んで欲しい」

様付けされて振り向けるほど亮は大物でも、悦に浸るような人間でもない。
まだ亮はただの学生だ。

「え、あ、そ、それじゃ…み、み、みず…も」
「うん。さっき、何を言おうとしてたんだ?」

悪い。だけど、腹が減ってるのだからさっさと用件を済ませて欲しい。今の腹減り亮に余裕なんか無い。

「あ、み、水守、くん、の親衛隊を結成してもよろしいですか?!」

しんえいたい…? あのサポーターもどきのか?
思わず皐月を見ると、すでにギラギラと煮えたぎる紅茶色の目が亮に注がれていた。見るんじゃなかった。

「うはぁ。俺も入りたいかも…」

環は他人の世話よりも自分の管理をするべきだ。一日に何度も貧血やら動けないほどの便秘を起こされちゃ堪らない。

「ぼ、僕は佐倉井くんの…はひぃっ!!」

こいつは皐月の眼力に耐えられずに皐月のサポーターになる気なのか?

「……ダメだ。親衛隊はいらない。皐月もだ」

「はっ!?」
「え、えー!? なんでだよ!?」

腐良、お前は少し黙ってろ。
そしてなんで花川が反対するんだ。

「い、至らぬ点がありましたら直します!」

たかが一学生である亮に何をそんなに必死になる。

「皐月も俺も自分のことは自分でできる。」

「こいつの意見何も聞いてなくね?」

灰谷はこんな時だけ口を挿むな。楽しそうにするな。

「聞かなくても分かる」

ぽけっとしている可愛げな皐月の首根っこを掴んでドアに手を掛ける。

「よし、行くぞ」

腹減った。

「あっ! 待って!」
「ぅお、おい! 待てよ!」
「水守くん!」

環に手招きしてドアの外から待っていると、同時に花川と小柄ボーイズまでも駆け寄ってくる。勘違いだ。やめろ。

だが、花川がドアを通り抜ける瞬間に灰谷がドアをスライドさせる。

ガトンッ!
「ぐぇっ!」

ドアに潰された花川。
愉しげに口角を上げて亮の元へやってくる灰谷。


灰谷、奴の血は緑色かもしれない。







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