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その勝負待った!
●13本目

「一学年? 7クラスずつだけど。んなAからSまでって、マンモスにも程があるだろ。 一体何クラスあんのよ?」

そりゃそうだ。灰谷の言う通り、そんなに沢山の金持ちや能力の高い者が集まる訳が無い。

近くでは花川が指を折りながらABCとアルファベットを唱えている。
奴の周囲にいる生徒ABC……はジャクソン5のABCの歌を歌い花川の邪魔をしている。

「やっぱ、クラスごとに特色とかあったりすんのか?」
 
腐興味津々な皐月が亮の隣から顔を出して灰谷に問う。
んでもって皐月の隣では皐月にべったりとひっついて亮をこそこそ見つめる環(たまき)がいる。


あの後、気絶した環をホスト教師の雛木佐鳥に言われた通り入学式会場まで担いで運んで来たのだ。灰谷が。
式が始まる頃になって目覚めた環は皐月の横を陣取り、始終こちらに控えめな視線を投げかけてくる。うざったいことこの上ない。
何故か亮の前の席二つが空いていたため、灰谷が空席を占領し、その前の席の奴らを強引に前へずらして灰谷、亮、皐月に環と並んで席に着いたのだった。

ちなみに灰谷の強引さに負けた亮の二つ前の席にはボケ担当の生徒BとCがいた。
灰谷に足払いを掛けられハブられた花川と一緒に恨みがましくこちらを見つめてくる。


「――まぁ、俺らのAクラスは選ばれた優秀な奴だけ集められたクラスってわけ。B,C,D……って順にな。けど、Sクラスは別格。顔も頭も金も。だから人数が限られて毎年メンツが変わんねぇの」

Sが最高値でAから順にランク付けされているのか。
背後から舌打ちが聞こえ、灰谷がこちらを睨むBクラスの奴に嫌みたらしい笑み返している。

資本主義社会の見本のような学園だ。上がいるように、下がいる。
一般では優れた才能でも、ここでは埋もれてしまうことだろう。意外とシビアな世界だ。
いや、だから一つのクラスが少人数制で下が這い上がれる可能性を設けているのか。

「あぁ、問題起こしたら、即Fクラス行きだから気ぃつけろよ。あそこは不良クラスってぇのか、やべぇ奴しかいねーから」

愉しげに笑う灰谷の口。
注意を促すと言うよりそれを期待しているかのようだ。

「あぁ。気をつける」
キタッ

皐月が拳を作って小さく悦んでいる。
なるほど。腐注意にFクラスには近づかない方がいいんだな。

こちらの方が断然分かりやすい警告だ。




皐月がもう少しで出番だからと席を離れた。

一つ席を空けた隣りには環がいる。そしてうざい。
先ほどからもじもじ亮の顔を見てくるのだが、何度も視線を送られるのは好きじゃない。

見ないなら見ない、見るなら見ろ。


『新入生、誓いの言葉』


機械を通して司会の穏やかな声が聞こえて来た。

そして壇上に登る皐月の姿が見える。
ちゃんと制服も整えている。えらいな。

皐月がマイクの前に立ち、一礼、そして顔を上げた。


ざわり。と会場内が波打つ。


緊張の面持ちで、話すタイミングを図る姿がいじらしい。

『――あたたかな春風がこの美云江流(びいえる)学園の大地に吹き巡り、春の息吹…』

「ごふっ!!」

――だめだ! 皐月! 何してくれてんだ!

何だ、その夜露死苦みたいな無理やり漢字テイストな名前は!
皐月、お前はいつから季節情緒を愛する詩人になったんだ!
いや、というか、何の捻りも無いまんまな学園名に誰も疑問を抱かないのか!?

脳裏に浮かぶアホ面×2。
皐月に縁、ここはあいつらのパラダイスだったらしい。おめでとう。


咳き込んだ拍子に鼻水まで出てしまった。

灰谷に手を出すも、「ない」としか言わない。
だが反対側から、そっとティッシュが差しのばされた。
ありがたく一枚頂戴し、鼻と口から出た粗相を始末する。

「はぁ、どーもな。助かった」

礼を言って隣りを見れば、春風に誘われたのか桜色の顔で亮を見つめている環がいた。
先ほどの余韻が残った頬笑み亮と桃色環の目と目が合って、

「あわわっ」

と環が慌てて椅子から崩れ落ちそうになる。あわわって何だ。
ギャグは暫く勘弁して欲しい。今の状態では抑えても喉で笑ってしまう。

「まだ耐久出来てないんだ。もう少し慣れるまで待ってやってくれ」

灰谷大人だな。

『在校生、歓迎のことば』

司会が変わった。聞こえたのはやわらかな縁の声。
 
壇上には既に皐月はおらず、別の細い奴が立っていた。
失敗した。皐月の挨拶を殆んど聞き逃してしまった。皐月がギャグを言うからだ。

「きゃぁあっ!」
「うぉお〜っ! みつるぎ様だぁあ!」

野太い声と甲高い声に応援され、司教よろしく片手を上げて生徒たちを宥める頬笑み顔の男。
鋭利な刃物のように顎が細い。見たことのある特徴だ。

『新入生の皆さん、このたびは美云江流学園高等部へのご入学おめでとうございます』

正式名称はもう言わなくていい。
また笑いを誘うつもりか。

カタン

「亮、てめぇ俺の話全然聞いてなかっただろ」

叫び声に紛れて皐月が戻ってきた。

「あんなに笑いのセンスがお前にあるとは知らなかったんだ」

「ちっ。うぜぇっ」

気恥ずかし気に正面を向いてしまった皐月。
隣りの環がへらへら顔で皐月をつついて、叩き返されて、じゃれている。ずるい。

「きゃああぁあ!」

それにしても後ろから横からと獣の咆哮のような叫び声が上がる。
前列は格式高いらしいSクラスなので大人しいもんだ。
亮が叫び声の聞こえる方向を怪訝な顔で探せば、隣の灰谷が可笑しそうに笑っていた。

「なんだ」

「もしかして知らねぇの? ここがホモ校ってこと」

ホモ校とは、つまりBL校ってことか。

「それは知ってる。皐月から聞いた」

「へぇ。一番馴染めなさそうなあいつがね……。ま、これ、ここではフツーだから。騒いでるヤツら、あの副会長さんとヤりてぇってヤツらなんだぜ?」

未だ壇上に立つ副会長を見れば、パンフレットに載っていた奴と同じ顎だった。あれに挿されたいのか? 笑っているようなイライラしているような面白い顔で感情のこもらない祝辞を述べている。
一部の人間は興味無さげにぼけっと奴を見つめるが、大多数は一言も聞き洩らさまいと奴をガン見している。
その心酔ぶりはある種のカルト宗教団のようだ。あながち奴が司教と言うのも間違っていないかもしれない。

何を信じようと構わないが、宗教戦争だけは勘弁してほしい。


『――以上を持ちまして私からの歓迎の言葉とさせて頂きます。平成二○年四月六日。生徒会副会長、見剣柊斗(みつるぎしゅうと)』






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