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その勝負待った!
○●

顔を真っ赤にした酸欠気味の奴。
目が合った瞬間走り去っていく奴。
ぎこちない話し方で聞き取り難い奴。


声をかける度に変な奴が多くて困った。

男くさいやつは皐月をヤマシイ目で見ていたので除外した。
ガラの悪いやつもどもり癖がややあったが一番聞きとり易かった。

全く、この学園は対人恐怖症が流行っているのか。あれは伝染病の一種だっただろうか。



で、漸く辿りついた亮と皐月の教室、1−A。

長かった。

複雑なようで意外と単純な道のりだった。
亮の傍らにいる皐月もお疲れ気味だ。

何せ、声を掛けたごつい男から鼻息を拭きかけられるわ、べたべた触られ手垢塗れにされるわ、皐月もBLの恐ろしさを味わったのだ。
だが、そいつを一発殴って皐月を救出し、皐月を腕に抱いても感謝の目で見られたのは役得だったな。

楽しげな話し声が漏れるAクラス。そのドアに亮が手を引っ掛ける。
クラスには変なやつはいませんように。と願いを込めて、ドアを、がらり、と開け放った。


割とクラスの人数は少なめのようだ。


教室内に足を踏み入れ、目の前の黒板に張ってある席順表の紙を手に取る。

亮と皐月の名前は…一番下の列にあった。
皐月は廊下側より一つ席が離れて、亮は窓から一つ席が空く。
縦に五人並んで、それが6列。一クラス30人とは少ないな。
亮と皐月は二つ席が離れているが、共に一番後ろの席だ。真ん中よりはマシだろう。

「席、結構近いな」

皐月が紙を無言で覗きこむ。
なんだ、皐月は緊張しているのか。

顔を上げて亮の席を探すと、多方向から向けられる複数の視線に気付いた。
どいつも興味深げで食い入るように、時折血走った目で、亮と皐月を見つめてくるのだが、目が合うとすぐに逸らされる。

「や、やべぇ……」

どいつの声だか知らないが、多分、亮と皐月に向けられた言葉だろう。
何に対してやべぇと言っているんだ。初対面の野郎に言われる筋合いはあるのか。
他の奴らもきゃあきゃあ、わーわー、うぉー、と呻きだし、教室内がにわかに喧しくなった。

雑音を聞き流しつつ、寄せられる注目を受け流しつつ…めんどくさいな。
窓側の方を見れば、一番の方には人のいない席と亮の席があり、その二つ隣りを見ると、もう一つ空いた席、皐月の席がある。

「皐月の席あれじゃないか?」

皐月の席を指差して皐月を振り返るも、無言。
目だけ亮の指さす方向を見る、眉間に皺が寄ったイライラ顔の皐月。

まぁ、こんなにも注目されれば人見知りっ子にはしんどいだろうな。
亮は剣道で注目されることや注目を引くことに慣れているため、それほどこの状況に堪えているわけでもない。
少しだけスポットライトの光が強すぎる気もするが。

思わず亮が苦笑を漏らしてしまい、それに気付いた皐月がムッとしたように亮を睨む。
落着かせるように皐月の背を撫でたが一瞬で叩き落されてしまった。いたっ。亮の純粋な優しさをっ。恥ずかしがり屋さんめ。

「は、はい! ここ! 佐倉井って奴の席なんだけど!」

起立に挙手して、ヘラヘラ楽しそうな顔で皐月の席を教えてくれたのは、金髪の長い髪を緩く縛った奴。皐月の斜め前の席だ。

亮のことではないので皐月をちろっと見る。

「良かったな。あそこだと」

皐月は睨むように、だが実際には戸惑い気味に亮を見て、奴に目を戻し、

「あー…。どうもな」

と言って教えてもらった皐月の席に向かう。

「あ、うん。あんたが佐倉井って人?」

と言って、既に金髪の奴は軽く皐月に話しかけている。

良かったなぁ。不良っ子改め、人見知りっ子の皐月にも気軽に話しかけてくれる奴がいて。

なんだか好々爺のように、いやいや、兄離れしつつある弟を見ている気分だ。
目尻が緩んでしまいそう。


大きく育て。皐月。





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あきゅろす。
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