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その勝負待った!
●11本目


目が覚めた。


寒い。


起き上がると亮が腹にかけていたのはブランケット一枚。
春にブランケット一枚はちょっとつらい。
寝れないこともないが、亮は布団は羽毛派だ。もこもこ温かいのがいい。

何より、今日は隣に皐月がいない。
昨日の朝は人間湯たんぽの皐月のおかげで朝までぽかぽか暖かかったのに。
縁すらいない一人のベッドとはこんなにも寒いのか。

そういや、昨晩は縁に添い寝希望を聞くのを忘れていた。
ガンガンにヌく、と言うのもどうかと思うが、一人楽しくがっつりヌき終わって、ぐったりしていたのだ。
どうせ、あの後ならば添い寝だけでは済まさないだろうが。きっと悪戯しまくって寝るどころではなかっただろう。


ぼーっとする頭をわしわしと、しばしばする目もごしごしと擦り、欠伸をひとつする、亮。
それにより少し意識が覚醒すると、亮がようやく気付いた。

下半身の違和感に。

ブランケットを捲ると、亮の目に付いたのは、朝のぐだぐだ感をものともしない、元気に起っきした亮Jr。
ブランケットから手を離して亮の視界から消し、頭をぼりぼりと掻く。

これが朝立ちか。

さて、どうしたものか。
亮は別に朝から盛ってなどいない。
ぼけっとする頭でそんな高度なことなど考えられるはずもない。
エロい夢も見ることもなくぐっすりと眠って、健全な気持ちで目覚めたというのに、なぜ亮のJrはこうも元気が良いのか。
なんだ、朝立ちって。いつもあるものなのか、朝立ちって。どう処理するべきなんだ、朝立ちよ。

昨日は皐月といちゃこらしてたから気付かなかった。ぴったりと皐月にくっついていたからな。
あぁ、だから皐月はあんなに顔を真っ赤にして亮の腕の中から飛んで行ったのか。
あの光景を思い出すと未だに笑えてくる。今いないのが残念だ。

そうだ、皐月に電話しよう。

ベッド脇に置いておいた亮の携帯を取り出して開くと、今現在は朝の6時少し前。
うん、少し早いくらいが丁度いい時間だ。朝トレをする亮にとっては。

皐月はもう起きているだろうか。

皐月の電話番号を引っ張り出し、発信ボタンをプッシュ。

PLPLプルぷる〜

ぅあ゛ぃ。……あ゛ぁ、亮か……何だ……』

寝起きの掠れた声が色っぽい、皐月。
今隣にいないことが実に惜しい。

「ああ、はよ。あのさ、“俺の”朝から勃っちゃったんだが、どうしたらいいんだ?」

『……は……ッ! っけんなっ! んなくだらねェことで電話かけてくんな!! 死ネ!! ブチッ』



よし。

今日も頑張ろう。


気付いたら息子も落着いて頭を横たえていた。
朝から皐月の面白い反応も聞けて、清々しい気持ちでベッドをでる、亮。
少し言葉がきつ過ぎる気もするが。朝だからか。亮が起こしたからか。いや、どっちもか。

この気持ちのまま、待ちに待った朝トレに励むとしよう。




日も昇ったばかりで空もまだ藍がかり、空気も冷たくて湿気っぽいさっぱり爽やかな朝だ。
スズメや他の鳥の囀りが朝らしい雰囲気を醸し出している。
足元の草に引っかかった朝露もきらきらとして、森の癒し空間作りに貢献している。

さっぱり冷たい空気を切るように、森の中を走る亮は感動していた。

最早ジョギングとも言えない速さで寮の近くの森を亮が駆け抜ける。風と共に景色が去りぬ。

何だ、この有り余る体力は! 体も前以上にパワフルに動かしやすくなった。これが筋力の差か。そして踏み出す一歩がとにかくでかい。これは猫バス並みじゃないだろうか。

すげぇ楽しい! 半端ない!

半笑い気味で亮が森の中を瞬間移動して行った。NINJYA!



一通り朝のトレーニングを終えて、汗ふきタオルとペットボトルを置いてあるベンチに戻り、余韻に浸りながら汗を拭く。
予想以上の体力の差。女の時は筋肉もしなやかで身軽だったが、男になった今は筋力の力強さが感じられる。

息が上がって体が熱い。朝から良い汗かいたな。
ペットボトルの水をぐぐ〜っと飲んで、余った分を頭にぶっかける。
Tシャツが濡れても気にしなくていいなんて、なんて男って素晴らしいんだ! ブラもしなくていいんだ!

濡れて顔にへばり付く前髪を掻き上げて一息吐く。

そして何気なく、先ほどまで走っていた森の方を振り向いた。


こちらを見てるやつがいた。

木に体を隠し、上半身だけ覗かせてこちらを向いている。


正直びびった。
何せ、そいつは目元を隠す長い前髪をした、得体のしれない野郎だからだ。リングの真似ごとか。
白と黒の牛のような色の頭。もさもさしていてボリューミー。そしてかなりの長身ときた。

そんなに目立つ姿で隠れているつもりなのか。
木に体を預けてこっそり覗いているようだが、こちらからは丸見えだ。
亮も頭に手を当てたまま、しばしの間固まってしまう。

どうしたらいいんだ。
やつはこちらが気付いていることに気付いていないのか。
目が見えないとまるで表情が分からない。ホントに目は口ほどに語っていたのだな。

Suddenly I see♪ This is what I wanna be……♪』

びっくりした。

確かに亮は歌詞通り、突然見たし、気付いた。
それが亮のなりたいものかどうかは別として。

なんだ、亮の携帯か。誰だ。勝手に亮の携帯の着信音を変えたのは。
亮は固定音か着メロ派だ。着うたはビックリするだろが。

確かこれは“プラダを着た悪魔”の主題歌だったか。
歌に聞き入りながら鳴りやまない亮の携帯を手に取ると、掛けて来たのは皐月から。

「おー。どした?」

『もうそろ朝飯にすっからさっさと帰ってこい。ぶちっ』

もっと可愛らしくコミュニケーションを楽しもうとする気はないのか、皐月は。

時間を確認するとすでに7時近い。やばいな。
タオルを首にかけ、ペットボトルと竹刀、上着を持ち、寮に向かって全力疾走する。
去り際にもう一度森の方を見るとまだ奴はこちら側を見つめていた。


あいつも戻った方がいいと思うんだが。

学校に遅刻するぞ。






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あきゅろす。
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