その勝負待った!
●6本目
「ぅ゛亮あぁっ!! お前一体何してたんだっ!?」
しっかり溜めをつくった皐月の怒号が部屋に響く。
唾を飛ばしながら一見、いや、一聞キレているようで、声だけ聞けば恐ろしいかと思う。
だが、目の前にある皐月の目が輝いていて顔は嬉しそうだ。
言っていることと、している表情がまるで違う、テンションのおかしい、皐月。
亮の個室に皐月を連れて来た途端、これだ。
少しは顔を慎め。
皐月に胸倉を掴まれ、睨むというかニヤまれているというか、とにかく妙な表情をした皐月から目をそらす。
皐月の後ろには焦ったような慌てたような挙動不審な縁が、口に手を当てあわあわしているのが見える。
声だけ聞いて、皐月がキレているとでも思ったのだろう。
なにせ、見た目不良だもんな。びっくりするのも無理もない。
だが、こいつの顔を見ろ。ただの腐良だ。
「答えろ、亮。てめぇどこまでやった?」
和み縁から皐月に目を戻せば、皐月がすごい眼力でこちらを見てくる。
とにかく期待を込めた目だ。今はその紅茶色にリラックス効果はない。
「皐月、俺はやられてもちゃんとやり返してやったぞ」
どこまでというのに疑問が残るが、亮は皐月の言う通り、“やった”のだ。
応えた瞬間、鼻の穴が広がる興奮した皐月。
小指が余裕で入りそうだ。挿れたい。
「ちょ、亮! なんてことを言ってんのっ!!」
向こう側で縁が焦ったように声を上げる。
そして、亮の胸倉を掴んだままの皐月が、ぐるっとその後ろにいる縁を睨みつけ、いや、多分ただフツーに見つめる。
「うひぃっ!」
縁が怖がっている。
縁は涙目になりやすいのだろうか。
よし、よし、と背中を撫ぜてあげたくなる。和みだ。
「少し落着け。……で? やったって何をやったんだ?」
皐月が縁の方を見ながら尋ねるも、興奮のせいで低く張り詰めたような声で言うから落着かせるには逆効果だ。
顔は見えないが、多分ぱっと見はキレて睨みつけるような、だが良く見れば興奮で目に力が入っているだけなのだろう。
「す、すみませへぇんっ、ぼくは亮くんを押し倒しかけたけど、何もしてませんっ。きみの旦那さんだとは知らなかったんです!」
「は、はぁあ!?」
折角縁が一生懸命説明するも皐月が声を上げたせいで、また縁がびくついてしまった。
まぁ、皐月が驚いて声を上げてしまったのは分かるが。
亮と皐月が夫婦。しかも亮が旦那か。
「押し倒しかけたっ!? 旦那!?」
ああ、皐月にとってはそこも重要なポイントだったな。
縁の顔が少し青くなってきたので、いい加減助け船を出してやらねば可哀そうだ。
亮の服から強く握りしめていた皐月の手を引き離す。
服が紙くずのように皺くちゃになっている…。
「皐月、あんまり追いつめてやるな。縁は大丈夫だから安心しろ。こいつは見た目は不良だが、ただの腐良だ」
「え? ふ、ふりょー? 結局ふりょー?」
皐月に一言いってやると、むっと睨んできて、縁を宥めるように言うと、困惑した表情でこちらを見てくる。
そういや、不良も腐良も音が同じだったな。すっかり忘れていた。
「あぁ、腐良というのも、腐ると書いての方だ。こいつは、腐だn「べちぃっ!」っ!」
口を叩かれたと思ったら、皐月に口を押さえられていた。
「それは言うな」
亮を睨みあげてドスを効かせて言う皐月。
しかし、頬に少しの朱色が走っていて焦っているのが分かる。
恥ずかしさから腐男子な腐良ということを隠したいのだろう。
思わず、皐月の掌の中でニマっと笑ってしまう。
一応上目づかいと捉えても良いだろう、目の奥には、頼む。と焦るように言っている。
それは、分かっている。分かった上でだ。
ぬちゃあぁっと皐月の手を舐め上げた。
「ぬぅおおあぁっっ!!」
ははは。皐月が気持ち悪がっている。
恐ろしいものを見るかのように掌を見つめた皐月は、すぐさま自分の穿いているジーンズに手を拭っては、必死になって擦りつけている。
「あぁ、縁。こいつはな、不良で腐男子、腐ると書いて腐良の俺の幼馴染、佐倉井皐月ってやつなんだ。ちなみに俺はこいつの旦那なんかじゃない」
亮と皐月のやり取りに驚いていた縁に、亮は丁寧に皐月を紹介した。ニッと笑みを添えて。
「ふ、腐男子?腐良?そこの彼が?」
呆けた顔をする縁は皐月を見た。
皐月は視線を感じてこちらを振り返る。
「そ。こいつ腐良。」
「って、あぁああ!亮!てっんめぇ〜何バラしてんだっ!まっじありえねぇ〜〜〜!!」
顔を真っ赤にして怒っている。
恥ずかしさで目が潤んでいるため、般若顔になりきれていない。
すると、すっくと立ち上がった縁。
顔が真顔だ。
どうした、どうした。
皐月に歩み寄り、戸惑う皐月の手を取り包みこんで、
「同志よ!!我も腐に誇りをもった腐男子なり!」
と大々告白、いらないカミングアウトをした。
縁よ、お前もか!
それを聞き届けた皐月も、
「なっ!なんてこった!こんなところで仲間に出会えるとは!」
と目からきらきらを放出しながら腐同志に応えるように、ぐっと手を握り返した。
手を握り合い感動の出会いを果たした2人には、きらきらぽわぽわ和やかな空気が包み込んでいる。
だが、2人の趣向はそんな可愛らしいものではない。
「腐同盟のけっせいだぁ〜〜!わぁ〜〜い♪」
「YEAH!!」
拳を上げはしゃぐ縁と皐月。
ここに腐同盟が結成されたことを亮は目撃した。
茶金と白金の頭。目にも耳にも痛い組み合わせだ。
あ、あと頭の中もか。
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