その勝負待った!
○○●
時計の針は7時40分を指している。そろそろやばいな。
縁に髪の毛のセットの仕方を教えてもらった。ナウい感じになったようなそうでもないような無造作ヘアー。
正直、セットの仕方も、セットした後の違いも亮にはよく分からなかった。
また明日も縁にやってもらえばいいか。
制服に着替えに亮の自室に戻り、亮が下のスラックスを穿いているところで、神妙な顔つきをした皐月も何故か入ってきた。めっちゃ着替え中なんだが。
「どした、皐月。今からヤんのか?」
「やるかっ!!」
なんだ。残念。
まぁ、時間が無いからな。残念なことに。ホント残念。
亮が青みがかったYシャツを羽織り、ボタンを下から順に閉めて行く。
下からの方が掛け違えなくて済むからな。
「おい、亮。お、お前……」
「んー?」
と適当に応えてやったのに、がっ、と急に皐月が亮の胸倉を掴まれた。
あ、こら。新調したばかりの制服に皺がつくだろが。
「な、なんだ」
やんわり皐月の手を掴み、今度はちゃんと目を合わせて尋ねてやる。
「亮、お前……縁とや、ヤったのか?」
胸倉を引かれている所為で亮の顔と皐月の顔の距離が狭い。
こんなに顔を近づけているのに、紅茶色の目は真っすぐと亮の目を見つめている。目つらくないか。
「んん、挿してはいない」
ヤったとは言い切れないからな。
目線を少し横にして考えながら答えると、皐月がまた胸倉をぐっと引き、亮の意識を戻す。
「つまり、途中までヤったってことか?」
途中とも言えるのかどうか。一応途中か?
「うん。邪魔が入ったからな」
しかし、体勢がキツイな。このまま体の力を抜けば、亮と皐月の顔はくっつきそうだ。
試しに少し腰の力を抜くと、皐月のおでこに亮のが、こつん、とくっついた。
近過ぎて皐月の目が見えないが、すぐ近くで皐月の息が感じられる。唇を伸ばせば口もくっつけられそうだな。
「あほっ! てめぇは真面目に聞け!」
べちぃっ!
いった!
おっぱい叩かれた!
せめて肌が露出してる所じゃなくて服の上からにして欲しい。
顔を離して皐月の顔を見直すと、真面目な顔をしている、皐月。
「なんでだ。お前はそういう話好きなんじゃないのか?」
縁と会った当初は縁を襲ったのかと楽しげに聞いてきたくせに。腐良のくせにどしたよ。
「縁は一応、と、友達だからな」
照れくさそうに言う皐月、かっわいい。
だが、ここでニヤリとしてしまってはまた叩かれてしまう。顔を引き締めねば。
「腐活動は楽しいが、それとこれとは別だ。
亮、お前が縁を悲しませるような真似をしてみろ。俺が今まで以上に殴って半殺しの域にしてやるからな。あと、てめぇが外道に落ちぶれた時もだ。そんなの俺が許さねぇ」
真摯な目で亮を真っすぐ見つめる皐月。
これは忠告なのか、それとも皐月のお願いなのか。
それでも、皐月も成長したな、と思える。友達思いになったもんだ。人見知りっ子だったのに。
亮もそれなりに大事に思われていたとは。嬉しいことを言ってくれる。
亮の返答を待っている様子の皐月に笑みを見せてやり、セットしたばかりの白金色の頭に手を置いてぐしゃぐしゃと撫でる。
「んなっ!! てっめぇ! 人が真剣に……」
「分かってる。俺も縁と皐月、お前が大事だからな」
一瞬だけ呆けた顔をして、言葉の意味を理解した皐月が恥ずかしげに目を逸らした。
「恥っずかしいこと言いやがって」
残ったボタンを閉めて、やり方のよく分からないネクタイは首に掛けるだけにしておく。
「最低限のモラルは守るよ」
「ったりめぇだっつぅの!」
調子を取り戻した様子の皐月。
やっぱり睨み顔の皐月の方が皐月らしくて、可愛い。
それに落ち着く。皐月の真面目な顔はどうにも慣れなくて心臓に悪い。
「さ、ガッコ行くぞ」
ブレザーを片手に引っ掛け、皐月の肩に手を掛けて部屋の外に促す。
亮と皐月が共に部屋を出ると、廊下にいたらしい縁に出くわした。
「えっ!? ヤってた!?」
あほか。
ヤりたくてもヤれなかったんだよ。
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