「あー、ムカつく!」
ホント、イライラする。
この部屋の主に許可もなくソファに乱暴に座ると、おずおずと彼の従者が近づいて来る。
すっと、目の前に紅茶を差し出しながら私の顔を覗き込む黒髪の少年、ギルバートの表情は怯えきって少し青ざめていた。
「あの、仮にもミョウジ家のご令嬢がそんな話し方でいいんですか…?」
けっ、あんたは私の母親か。
悪態をつきながら紅茶に手を伸ばす。…唇に触れる紅茶の温度は、適温だ。(…ギルのくせに)
「ギル!」
「はっ、はいいぃ!」
ばん!と大きな音をたててドアを勢いよく開けて入ってきたオズにギルバートの体は大きく跳ねた。
心なしか顔がさっきより青くなっている。
「ナマエが今日来るっ…て…何してんのさナマエ!」
「はろーオズリン!お邪魔してるよー」
ふーんオズって私が来る時こんな反応してるんだ。あーあー顔赤いかーわいいー。
私が軽く手を振るとオズは我に帰ったかのように笑ってこっちに近づいてくる。
ギル?とっくの昔に紅茶をオズの分淹れてオズに出してるさ。…ギルのくせに!
「で、今日はまた何でここに?予定の時間より早いよね?」
うんまったくもってその通り。ごくごく普通の質問ありがとうオズ君。
「これにはふっかーい事情がありまして。」
オズはうん、と相槌を打つ。ギルはオズの傍に立って疑問符を浮かべている。座ればいいのになぁ。
「本日親に婚約するとか言われまして。相手はいいとこの御子息だから絶対気にいる、って。写真見たんだけどホント、私には勿体ないくらいの美少年でさぁ…、」
ああちくしょう、涙声になってる。笑え、笑って、言おう。
「私、もう今年誕生日が来たら15でしょ?だから、成人したら、」
「ナマエは、その人でいいの?」
ふわり、と抱き締められる。オズが私の言葉を遮るように続けた。そんなのいやだ、と首を横に振るとオズが安心したように微笑むのが分かる。だって、私はオズが、
「なら断ればいい。文句なんてオレが言わせない。オレ、ナマエのこと、好きだから、さ…。ナマエには幸せになってほしい。」
「あ、え、わ私も!オズが、好き。」
えがお
にする呪文
君の言葉全部が、私にとっての特別な呪文
(あ、やっと笑った)
(うん。あ、でも婚約ホントにどうしよ…)
(まあムリヤリ婚約させられたら駆け落ちでもしよっか)
(ええぇぇ!?いいいいけませんよ坊ちゃん!第一そういう話をするなら僕のいない時に…)
(ならギルも一緒ー)
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