p,3 ここら辺は農家が多い。しかし、剣術は盛んだった。 試衛館も多摩の地方に門弟が多い。 農期になると稽古に顔を出す者は少なくなるが、それでも月収はそういう者からがほとんどだから、試衛館の者たちはこの地方へ出稽古に行くのだ。 俺が勝っちゃんと出逢ったのも、その関係だ。 奉公先を追い出されて実家に居づらくなった俺は、姉のおのぶの嫁ぎ先である佐藤家に身を寄せていた。 この佐藤家も名主を務めるほどの家で、敷地の一角に道場があり、そこを天然理心流の稽古のために解放してくれているのだ。というのも、当主であり、俺の義兄の佐藤彦五郎は近藤周助先生に天然理心流を習い、免許皆伝となっているのだから。 なので、出稽古に来ていた勝っちゃんと佐藤家にやっかいになっていた俺が出逢うことになったのは必然的だったのかもしれない。 半時ほどいろいろとまわってみたが、今日は収穫はなさそうだ。 今日は早々に引き返して、ちょっくら遊びにでも行くかと考えていると前方から見覚えのある人影が近づいてきた。 ――あいつァ… 何故かは知らないがひどく落ち込んでいるようだ。足取りも重そうである。 ――何でこんな所にいるんだ? 「お前こんな所で何やってんだ?」 どうやら向こうはこちらに気付いていなかったらしい。 俺が声をかけるとびくりと肩を震わせ、おずおずと顔を上げた。 「ひ…土方…さん?」 [←前][次→] [戻る] |