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「あぁ、猫だ」

茶色い毛の小さな猫が気持ちよさそうにごろごろと寝転がっている。野良だろうか。
一体ここにどうやって入ってきたのか。

猫というやつは実に気まぐれでどこへでも割ってはいってくる。
しかし、憎めない。

「おいで」

手を伸ばしてみると逃げてしまう。放っておくと近づいてくる。

――まったく……

「山南さん。ここにいたのか」

「どうかしました?」

「私と一緒に出稽古ですって!」

あっ、猫がいる
この道場の当主である近藤さんに声をかけられた。
しかし、私の質問に答えたのはその後ろからひょっこり顔を出した少年で、その少年はというと庭にいる猫を見るや裸足で庭におり、猫に近づいていった。

不思議だな。
私が近づいたときには逃げてしまったのに今度は逃げないのか。

「いてっ!ひっ掻かれた」

「何をやっているんだお前は」

「近づいても逃げなかったから触っても平気かと思ったんですが…」

ひっ掻かれた手をさすりながら苦笑している様がおかしい。なんとも彼らしい。

「猫は気まぐれだからね」

「ソージ、しっかり足を洗うんだぞ」

そう言うと近藤さんは奥に引き取ってしまった。
注意した声はどこかあたたかさを含んでいたように思う。

罰が当たったんだなぁ…
そんなつぶやきを漏らす彼は、いつの間にか猫を抱いていた。


ここは私にとっては不思議な空間だった。本当に何もかもが私の知った世界とは少しずれているような気がした。
実際何がずれているのか探したりはしなかったが。

いや、探すまでもなかったのだ。

あの人に負け、この道場に居座ることになったあの日は鮮明に思い浮かべることができる。
皆が私の話を聞きたがり、歓迎してくれた。
万物を包んでしまうような雰囲気に自分は溶けこめているだろうか、そんな不安はあの時に消えてしまった。

馴染んでしまった。
今までがどうあれ、今はここが中心だから、違和感などない。

「山南さんっ!」

「ん?何かな?」

「この子…少しお願いできますか?何時までもこうして立っているわけにはいきませんので」

「あぁ、そうだね。しかし、よく寝ているなぁ」

「どうしよう。これじゃ飼いたくなってしまう」

先生に怒られるかなぁ
そう言う割に楽しげな彼に困ったねとこれまたそんな風に聞こえぬ笑顔で返した。




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