p,2 俺は今、実家で作っている薬を売り歩いている。 実家はお大尽と呼ばれる豪農であるが、末っ子として生まれた俺は家督を継ぐことはできず(もっとも継ぎたいなどと思ったことはないが)奉公に出されていた。 しかし、自分はどうも奉公人には向かないらしく、二回も解雇されている。 一回目は奉公先の親父ともめて夜中に飛び出し、九里ほどの道を実家まで歩いて帰った。あの頃はたしか十二位の歳で、真夜中を良く迷いもせずに帰れたもんだと、我ながら感心してしまう。 二回目は、若さ故の過ちというか……。 とにかく、親戚一同、俺に奉公させるのは諦めたらしくこうして薬を売り歩いているのだ。 しかし、薬を売っているのにはもう一つ理由がある。 それは剣のためと言うよりほかない。 薬を売りに行くついでに近くの道場に片っ端から試合を申し込んだ。 これは実に効率的で、試合を本気でやればそれだけ怪我をすることになる。 実家で作っている薬の中に『石田散薬』というものがあり、これは打ち身などに良く効く。これを試合をした先で売りつけるのだ。 自分の腕を磨くことも出来、薬も売れる。 実にいい商売だ。 今日はどこら辺まで行こうか。 薬箱を背負いなおし、普段あまり行かない方面へと足を向かわせた。 俺はふらふらと勝っちゃんの実家があるあたりまで来ていた。 ここら辺の農村には滅多にこないが、気分転換にはちょうど良い。 先程まであの重い木刀を振っていたのだ。わざわざ試合を申し込もうとは思わなかった。 [←前][次→] [戻る] |