p,7 すぐ近くにあった小料理屋に上がり込み、酒とちょっとした賄いを頼んだ。 全く信じられないことにあれだけ蕎麦を食べたにも関わらず、酒と料理は次々に友の胃袋の中に消えていった。 俺はといえば、まだ蕎麦を食べたときの苦しさが残っており、とてもものを食べる気にはなれなかった。 もしかしたらこいつの胃袋は底なしで、いくらでも、ものが入るのではないか。だからこそ普段俺に勝負を挑むなんてあり得ない奴が挑んできたのではないか。抜け目のない奴だから負けるとわかっていることはしない。 そう思うとまくしたてられるとついのってしまう自分が悲しくなってきた。不器用なのだ。合理的でないとも言えようか。だが、そんな俺の性格を皆が慕ってくれているのもまた事実である。 だんっ! 勢いよく杯を机に置き、呂律の回らなくなった口で友は喋り出す。 「だーからよぅ」 「あーあーわかったから、もうそれくらいにしとけよ」 案の定だ。顔を真っ赤にして目など開いているのか閉じているのかわからない。 完全に酔ってしまった友をなだめるのは骨がいった。 何度も帰ることを促すが、全く飲むことをやめず、最後には泣き出したものだから参った。泣き上戸だったろうかと思うほど、わんわんと大声を上げて泣いていた。 それほど惚れていたということか。この時、よけいな茶々を入れてしまったと大いに後悔した。 ようやく泣きやんだ頃にはうとうとと眠ってしまい、これはこれで困った。いくら揺すっても起きないので駕籠でも呼ぼうかと思ったが生憎蕎麦代と今の料理屋への支払いで金はもう残っていなかった。家に帰ればいくらかあるが、不況の世でなるべく出費は押さえたいところであった。 仕方がないので担いでいくことにしたが大の大人が酔って眠ってしまっている、これは意識がないに同じでひどく重く感じられた。だが、日々の鍛錬のおかげもあって歩くのにさほど苦労はしなかった。 [←前][次→] [戻る] |