p,6 「呆れた奴だな」 「そりゃどうも」 「褒めてはいないんだがな」 かなわない。 そうだ。いつだって目的を持った奴、馬鹿な奴にはかなわない。 今のコイツはその両方が揃っているのだから勝てっこない。 惨めな思いを晴らそうと、俺は思い切ったことを聞いてみた。 「で?お香さんはどうなんです?コイツのこと」 「えっ?あたしかい?」 「おい、勝太!」 友は焦りだした。 だが、堂々と自分の本来の目的を言ってしまったのだから今更焦るのはおかしなものであろう。とことんおかしな奴だ。 対するお香のほうも困り顔だ。 「あたしは……別にどうとは」 悩んだ末に口にした言葉がそれだった。 先程まで有頂天だった友は、今は魂が抜けたようにしけた面をし、力無くその場に崩れ落ちた。 「蕎麦は俺がおごってやる。約束だからな。失恋したのは残念だったな。これから酒でも飲みに行くか」 俺は落ち込む友を立たせ、勘定をした。 落ち込むような状況に追いやったのは自分自身なのだが、意気消沈している友の姿を見ていたら同情してしまった。 俺は情にもろい。それは自覚している。周りからもよく言われることだ。 それからしばらく河原で延々と愚痴やら泣き言やらを聞かされることになった。今日はついていない。食べ過ぎで気持ち悪いというのに暗い話ばかりされては気分が晴れない。 悪いことというのは連続して起こるものなのか、朝から野良猫に引っかかれるは、何もないところでつまづくは、悪いことばかりだ。 悪いことの後には良いことがあるというが、今日という日は良いことが起こりそうな気配が全くなかった。 酒を飲もうと誘ったは良いが、実際俺は下戸だった。 酒を酔うほど飲むことなどできそうにないので、やけ酒を飲みぐでんぐでんに酔うであろうこの友を家まで送り届ける役目は俺が負うことになりそうだ。 [←前][次→] [戻る] |