VIVID 5──男好きですけど何か? ──か、かっこいい……。 完全に乙女思考に染まり、真っ赤になってその男を見詰める。 向かいの席に戻った、広い背中を熱く見詰めていたが、悠心はふとあることに気付いた。 あ、れ……あの制服……。 見覚えのある制服にギクリとした瞬間、その男と目が合う。 まるで、悠心の全てを見透かす様な、真っ黒な瞳に心臓が跳ねた。 「……」 しかし、その視線はすぐに、気まずげに外される。 「……?」 悠心は不思議に思って、熱くボーッとする頭を傾げ、そしてすぐにある考えに至って、一気に青ざめた。 やっべ……もしかして俺ガンとばしてた? 有り得るどころじゃないその可能性に、思わずしまったと慌てる。 気まずそうに視線を外した向かいの美形の顔を思い出し、悠心はがっくりとした。 明らか戸惑ってたよ……あああ。 つくづく損だと思う。せっかくのタイプな男も、こうやって逃してしまう。 相手にキツい印象を与えるビビッドピンクの髪。幾つも空いたジャラついたピアス。 眉毛も剃っているし、制服だってもう、これまでの殴り合いやら何やらで、汚れてくたびれている。 これじゃあ、いい男なんて捕まえられっこないよなぁ……。 悠心の言う“いい男”とは、自分とは真逆の、要は優等生で真面目そうな男のことを指す。 そして、今向かいに座っている男が。 ────どストライクなんだよなああ……! 長い足を惜しげもなく組んでいる所も、清廉で堂々とした雰囲気も。 全てが悠心を惹きつけて止まなかった。 しかし、やはり現実は厳しく、漫画の様にはいかない。 今までもそうだった。 好きな男には、好意を寄せられるどころか、恐れられる。 同じ匂いがする男(主に黒条の学生)には殴りかかられ、ケンカに。 悠心を受け入れてくれるのは、友人か先輩、後輩くらい。 その中から信用できる男を探し、更にバイやゲイを見付ける。 そんな条件から数人を絞り出し、恋愛やセックスに持ち込む。 そんな面倒なことをしないといけなかった。 友人達からは、「お前顔はいいんだから黒髪に戻せばモテるよ」なんて言われるが、そんなことはしない。とんでもない。 昔から、可愛いと言われるこの顔が、悠心はコンプレックスだった。 くっきり二重に、甘めに見える大きめなたれ目。それに加え、小顔ですらりとした体躯。 俗に言う、アイドル系。 しかし、悠心はアイドルになりたいわけでも、甘めの男子になりたいわけでもない。 どちらかと言うまでもなく、かっこいい男になりたい。 そう、例えば、今目の前にいるような……。 そう思って、向かいに座る男子生徒を見詰める。 ──理想だよなぁ……。 自分ならばこんな男になりたいと思う、理想を具現化したような男。 悠心も本当は、こんな男になりたかったが、頭が良くなかったことと、黒髪にしていると可愛いと言われるので、今の様な道に走った。 別に、身長低い訳でもねぇのに。 もともと気性が荒く、血の気が多かったこともあり、すんなりとやんちゃにも慣れ、柄の悪い先輩達からは可愛がられた。 反抗的で自由な生活は、刺激的で楽しい。 今では心も外見も立派な不良になった。 ケンカは楽しいし、バイクに乗るのも楽しい。酒も好きだし、セックスはもっと好きだ。 悠心はゲイ寄りのバイで、抱くより抱かれる方が好きだった。 男が好きだと気付いたのは、中学一年生のころ。 当時仲のよかった先輩に、ふざけて抱き締められた時、妙に心地良くて、離して欲しくないと思った。 そして、その思いは成長していくにつれて強くなっていき、悠心は自分がバイなのだとわかった。 男とのセックスはすぐに覚えた。 セックスを覚えて間もない頃は、夢中になって人肌を求めた。 んだよ、だって気持ち良いじゃんか。 男がセックス好きで何が悪い、と悠心は堂々と開き直り、快楽主義の道をを歩んでいる。 ……まあ、バイだと知れ渡るのだけは勘弁だから、親しい者にしか悠心の性癖を教えてはいないが。 「……」 ──やっぱり、美形過ぎる。 一目見た時から美形だとは思っていたが、見れば見るほどその男に惹き込まれていく。 あんまり見てはいけないと思いつつも、目が離せない。 触ってみたい。 あのサラサラとした黒髪に、触れてみたい。 どんな感触がするんだろうと思うと、それだけで下の方に熱が溜まっていくのを感じた。 あのキレイな顔は、どんな風に歪むのだろうと、勝手に卑猥なものに変換して、ごくりと喉を鳴らす。 ……ってゆうか。 ついさっき存在を確認した見知らぬ男に、朝っぱらから俺は何を考えているのだと、我に返った悠心は自分の浅ましさに呆れた。 それと同時に羞恥心も湧いてきて、いたたまれない思いで俯く。 ──何してんだ、俺は。 ──その時、悠心は気付いていなかった。 向かいの席の男が、熱い目で悠心を真っ直ぐ見詰めていたことに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |