VIVID 4──やべー超タイプなんだけど 「──遅いわよ、悠心!」 一階に降りると同時に、ヨウコの怒声が聞こえる。 「っせえな、ババア」 ぼそりと呟くと、リビングから出てきた父親に後ろから頭を叩かれた。 「いって!」 「ヨウコさんに何てことを言うんだ」 そう言って悠心を見下ろすのは、父親とは思えないほど若々しい男。 「オヤジ……」 そう呟いた悠心は、叩かれた頭をさすりながら父親を見上げた。 「京一(きょういち)さん」 すると、感動したようにヨウコが京一に抱き付く。京一はそれを受け止め、甘い笑みを浮かべた。 「ヨウコは誰よりも可愛いよ」 「京一さんも誰よりも素敵っ」 ヨウコの目は乙女のようにキラキラしていて、悠心の時とは大違いだ。 クサレババア……。 息子そっちのけで朝からイチャイチャする両親に、悠心は呆れてテーブルに向かう。 まったく、いい年してなにしてんだ。 しかし、そうは言ったものの実際は、ヨウコと京一は高校生の親にしては若い。 京一は18の時に母親であるヨウコに出会い、結婚。 その時には既に、ヨウコは悠心の兄を身ごもっていたため、実質18歳で父親になった。 ちなみに、ヨウコは20歳の時に京一にプロポーズされ、即OKしたらしい。 しかも、二人共実年齢よりかなり若く見えるため、見た目は20代後半か、30そこそこに見える。 うちの親っていつまでもラブラブだよなぁ。 テーブルの上に用意されていた朝食を口に運びながら、悠心はげんなりと思う。 イチャイチャするのは別に構わないが、できるなら悠心が出て行った後にして欲しい。 「──じゃ、行ってくるわ」 さっさと朝食を食べ終えた悠心は、そう言って通学カバンを肩に背負った。 「行ってらっしゃい」 「あんまりケンカするんじゃないわよ」 両親の声を背中に聞きながら、悠心は玄関を出る。 ……こんなに朝早く学校に行くのは、いつ以来か。 爽やかな朝の空を見上げ、悠心は憂鬱に思った。 △ ▼ △ ▼ ──ガタンゴトンと、時折揺れる電車の中。 悠心は、特にすることもないので、窓から外の景色を眺めていた。 つうか、この俺が遅刻しないで学校行くとか……。 柄じゃないなぁ、と思う。 「……」 ……てか、あんまり混んでないんだ。 悠心のイメージだと、『平日の朝の電車=ラッシュ』という方程式があったのだが、どうやら始発駅から近いということもあり、割と人は少ない。 おかげで席にも余裕で座れたし、何より満員でなくて良かった。 悠心は人混みが苦手で、酔ってしまうタイプだ。 「…………」 悠心は、居心地悪く眉を寄せた。 ──電車に乗っている学生やらの視線が突き刺さる。 こんなに朝早く登校する、派手髪の高校生が珍しいのだろう。チラチラと隠し切れていない好奇心が丸わかりだ。 ちっ、うぜえ……。 悠心は内心舌打ちし、ケータイをポケットから取り出す。 不愉快な気分になったので、とりあえず友人に迷惑メールを連送することにした。 ──カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ 恐らくまだ眠っているであろう友人に、暇つぶしも兼ねて気晴らしに、意味もなく文字を連打し送る。 それを延々と繰り返していると、次の駅に着いたのか、電車は一旦停車し、悠心の体が揺れる。 電車を降りる人と、乗る人が行き交う様をぼーっと眺めていると、悠心の向かいの席に誰かが座った。 ──うわ。 思わず、息を呑んだ。 目の前の席に座ったのは、思わず見惚れてしまいそうな程の美男子。 清潔そうな漆黒の髪は、凛々しく整った顔立ちによく合っている。 すっとした切れ長の目は黒く澄んでいて、不思議な引力があり、ドキドキした。 足を軽く組んで読書をする姿が様になっていて、悠心はもうその男から目が放せなくなる。 ──やべえ、どストライク。 悠心は、思わずケータイを落とした。 ふと顔を上げた男と目が合った。それだけで悠心はひどく動揺してしまう。 「あっ……」 やべっ。 慌てて落としたケータイを拾おうとするが。 「はい」 「……ッ」 なんと美形男に拾ってもらい、思わず悠心は挙動不審になる。 「あ、あり、がと……」 ぶっきらぼうに言い、悠心は軽く頭を下げた。 うわー、うわー! ケータイを渡す時に手がほんの少し触れ、悠心はもう心臓が口から出そうになる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |